こんにちは、Developer Relationsで学生向けハッカソンHack Uのプロデューサーを担当している中村です。
先月は「よりハッカソンを楽しんでもらうためのワークショップとは」と題して、Open Hack U 2020春開催に向けて開催したワークショップのご紹介しました。この記事では、前述にある記事の続編として、Open Hack U 2020春開催の様子とともに、ハッカソンにおける学生たちの技術トレンドをひも解いていきます。学生たちがどのような言語、技術を使い、どのような作品を作り上げてきたのか、ご覧ください。
Open Hack U 2020春開催について
Hack U はヤフー主催の学生ハッカソンです。大きな違いは、ヤフー社員がさまざまな面でサポートを行う点です。詳細については以前書いたOpen Hack U 2020夏開催の記事をご確認いただければと思いますが、今回初めて春休みにも開催しました。これまでは夏に主軸をおいて開催してきました。ですが、2週間という短い期間であれば春にも開催できるのではないかと考え、2020年度から春開催をトライアル的に始めました。
今よりも多くの学生たちにものづくりの面白さを知ってもらう機会を増やす一方で、初めての春開催ということもあり、学生たちがこの時期に参加してくれるのかは非常に不安でした。開催のアナウンスからチームを作るための時間、説明会までしっかりと時間をかけることができたため、結果的にはHack U史上最速で満席になり、全2回で40チームが春開催に参加してくれました。
各開催の最優秀賞
Hack Uでは以下4つの観点で優れた作品に対し表彰を行っています。
- 新規性(技術や組み合わせのオリジナリティーがあるか)
- 技術性(利用している技術は高度か)
- 発展性(将来どの程度の波及効果が期待できるか)
- 再現性(アイデア、プレゼンテーションだけではなく実際に動くものがあるか)
これらの観点で総合的に最も優れた作品に対して最優秀賞が贈られます。全40作品の中から今回は各会の最優秀賞を獲得した2作品をご紹介します。当日の様子はYouTubeのHack Uチャンネルでも公開しておりますので、他の作品が気になる方は合わせてご覧いただければと思います。
参考:Hack UのYouTubeチャンネル(外部サイト)
作品名:プレゼンペースメーカー(ONLINE Vol.4 最優秀賞)
- チーム名:334jst
発表時に、スピーカーにスピーチ速度の変化を見せるという作品です。新型コロナウイルスの影響でリモート発表をする機会が増えましたが、発表中に聞いている人のリアクションがなかったり、空気感がわからなくなることで、自然と早口でしゃべっている可能性があります。この作品は一定時間ごとの音声入力を取得し、MFCC(メル周波数ケプストラム係数)を用いて特徴量が変化するタイミングで母音が変化していると推定します。その変化からしゃべる速度を算出します。
オンラインの発表だけでなく発表時であればいつでも使える点や、しゃべる速度の調節、また例文を与えれば特定のスピードで練習することが可能な機能など幅広く要素を押さえている点に加え、細部にまでこだわった作品に仕上がっていました。
作品名:OmnisCode(ONLINE Vol.5 最優秀賞)
- チーム名:さぼてんとゆかいな仲間たち
個人開発の際に気軽に質問をしたりコードレビューをしてもらいたい、という思いに応えるためのコード共有SNSサイト。Twitterアカウントでログインすることで、コードとコメントを投稿すると、GitHubのようにMarkdown形式でやりとりできたり、Twitterに投げることもできる作品です。
本人たちが大事にしている「気軽さ」も十分に感じられるのですが、特定の行をハイライトさせたり、サイト全体のデザインも含めきれいにまとめられている作品でした。個人開発している人たちのコミュニケーションプラットフォームにもなり得ると思います。
作品や利用技術の傾向
新型コロナウイルスの影響に鑑みて、春開催でも夏開催に引き続き、対面で集まって開発することを禁止としました。夏開催時はオンラインでの開発になれていなかったこともあると思いますが、そこからある程度時間が経過したことで、多少オンラインでの開発になれてきた部分もあると思います。
そういった状況の中、学生クリエイターたちの技術トレンドが変化しているのか夏開催の作品傾向や利用技術などと比較しながら見ていきます。
Web,モバイルアプリケーションが主軸に
夏開催に引き続き、対面での開発ができないことから、ソフトウェアのみの作品が約95%、ハードウェアを使った作品は全体の約5%と、ほぼ夏開催と同様の傾向になっています。対面での開発ができなくなったことで、ハードウェアを作成するコストやデバッグコストが大きくなっており、挑むチームが減っているのではないかと言えます。また、展示会で実際に触ってもらえない点も考えると距離を置いてしまうのも理解できます。
また、2019年度に開催したOpen Hack UではAR,VRなどのxR系アプリケーションが増加傾向にありましたが、こちらが減っているのもデバイスを用意するコストなどが影響しているのではないかと考えられます。
今はまだ難しい状況ですが、オフラインで開催できるようになった時にハードウェアを使った作品やxR系の作品などが再び増加するのかは今後の見所になりそうです。
※ 詳細な割合の差分についてはOpen Hack U 2020夏開催の記事をご参照ください。
JavaScript,Pythonの継続利用とTypeScriptの台頭
続いて使用されていた言語や技術について見ていきます。上記のグラフは寒色系が春開催、暖色系が夏開催のデータです。夏開催は全80チーム、春開催は全40チームの利用件数となっています。
使用言語の利用率で見ていくと、引き続きJavaScript,Pythonが作品の大半を占めているのがよくわかります。春開催の作品を見てみると、JavaScriptはjQueryやVue,Reactなどのフレームワークを利用する際に用い、PythonはFlaskでフロントエンドを書いたり、バックエンドの処理を書く際に利用されているケースが多い印象を持ちました。
利用技術についてもFirebaseの利用チーム数が夏開催に続けて増加しています。事前にFirebaseワークショップを開催したことも影響している可能性はありそうですが、モバイルアプリケーションやWebアプリケーションを作ろうと思うと、Firebaseを使うことである程度の機能が担保できるプラットフォームになっているという点が学生たちにも受け入れられている可能性がありそうです。
一方で、春開催の特徴的な部分として以下の2点があげられます。
- TypeScriptの台頭
- PHP,Java,Kotlinの利用減少
夏開催に比べて春開催ではTypeScriptの利用率が増加しているのに気付きましたでしょうか。夏開催では約5%程度だったものが、春開催では約25%と大きく利用率を伸ばしています。
TypeScriptにはいろいろな特徴がありますが、その中でも利用率を上げている要因の1つではないかと思われるのが、型の定義ができることです。型の定義をすることでコード全体の可読性もあがり、チーム開発での負担を減らすことができたり、書きやすさも相まって取り組みやすいなど、さまざまな利点があります。また、ReactやVueとの相性も良く、非常に使いやすい言語であるため、今回伸びた可能性もありそうです。
ヤフー社内だけでなく、Googleなどでも社内の標準言語として指定されており、多くのエンジニアたちからも人気が出てきているという話もあります(参考:JavaScriptフレーバー - 外部サイト)。その結果、リファレンスが増えているというのも一因になっているのかもしれません。
PHP,Java,Kotlinの利用減少については作品の種類にも影響があるため、一概にそうであるとは言い難いのですが、PHPの利用率は減少傾向にあると言われています。JavaScriptやTypeScriptとReactの組み合わせや、PythonとFlaskの組み合わせなどにトレンドが変化してきていることから、これから開発を学ぶ人たちのトレンドからは外れてきているのかもしれません。
まとめ
いかがでしたか。この1年オンラインでのハッカソンを開催してきましたが、作品の傾向はこれまでの開催とは異なる形に変化しました。世の中の常識が変わる中、テクノロジーを使って新しい価値を創造していくのはとてもおもしろいことだと思います。そのためには継続してチャンレジしていくことが重要だと私は考えています。今回参加した学生たちにとって、Open Hack Uに参加したことが良い経験になり、今後もいろいろなハッカソンに出場してものづくりを楽しんでもらうきっかけになっていれば幸いです。
次のOpen Hack U 2021は現在開催予定で進めています。時期は調整中ですが、決まり次第Hack UのTwitterアカウントでご案内します。Hack Uはヤフー社員がフォローしながらものづくりを進めるハッカソンイベントですので、これからものづくりを始める学生さんでも大丈夫です! 去年1年参加できなかった学生の皆さんや、これからものづくりを始める学生の皆さんは、よろしければフォローの上、ご案内までお待ちいただければと思います。
参考:Hack UのTwitterアカウント(外部サイト)
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