こんにちは、Developer Relationsで学生向けハッカソンHack Uのプロデューサーを担当している中村です。
昨年開催したHack U 2019に続き、今年の夏も「Open Hack U 2020」と題して学生向けハッカソンを開催しました。この記事では、Open Hack U 2020で学生たちが生み出した80作品の傾向や使用言語、技術などのデータを見ながら、新しい時代に向けて学生たちがどんなことを考えているのか見ていこうと思います。
Hack U とは
Hack U はヤフー主催の学生ハッカソンです。限られた期間の中でプロダクトを学生自ら企画・開発・発表する点は通常のハッカソンと変わりありませんが、大きな違いは、期間中にヤフー社員がさまざまな面でサポートを行う点です。ヤフーのサービスを日常的にアップデートしている現役クリエイターからアドバイスをもらいながら開発したり、コミュニケーションを取ったりする機会を求めて毎年多くの学生たちが参加してくれています。
昨年度は東京、名古屋、福岡、大阪、仙台の全5会場で開催し、500名を超える多くの学生たちに、ものづくりの面白さを体感してもらう場を提供することができました。その勢いで、今年度はさらに北海道、金沢、岡山の3会場追加して、全国を網羅するとともに、夏と春に開催することで、より多くの学生に参加しやすい形を検討していました。ですが、新型コロナウイルスの影響に鑑みて、予定していた開催をすべて白紙に戻し、オンライン開催に切り替え、日程をずらしながら全3回開催しました。
各開催の最優秀賞
Hack Uでは以下4つの観点で優れた作品に対し表彰を行っています。
- 新規性(技術や組み合わせのオリジナリティーがあるか)
- 技術性(利用している技術は高度か)
- 発展性(将来どの程度の波及効果が期待できるか)
- 再現性(アイデア、プレゼンテーションだけではなく実際に動くものがあるか)
これらの観点で総合的に最も優れた作品に対して最優秀賞が贈られます。Open Hack U 2020で最優秀賞を獲得した3作品をご紹介します。
ONLINE Vol.1
- 作品名:BAGHACKER
- チーム名:トレンディエンジェルズ
プラスチック製買い物袋の有料化が始まり、マイバッグの利用が増えていますが、どう詰めたらより効率的なのかを3D空間で見せながらシミュレートして、実際に教えてくれるアプリケーション。入れるものが何かを選択することで、重さやその物体を傾けることができるのかなどもアルゴリズムの中で考慮されている点がよく考えられています。また、ローカル環境のみで実行できる手軽さが利用者のことをよく考えられています。
ONLINE Vol.2
- 作品名:AIAS
- チーム名:魔法少女まきの☆マキノ
ユーザーが事前に選んだ複数の第三者機関すべてが承認することで、プライバシーを守ったままユーザーを追跡することができるようになるモバイル向け匿名認証サービス(第三者機関とは銀行のようなものをイメージするとわかりやすいかも)。これをサービス内に導入することでより安全にサービスを提供することができたり、何かあった時でもプライバシーの侵害をしない状態で追跡が可能になるという優れもの。フェアブラインド署名と分散RSA暗号を使って、認証させる部分を2週間で作りきる技術力の高さに今後の可能性を大きく感じます。
ONLINE Vol.3
- 作品名:写真あげMASKぁ~??
- チーム名:Cos5year
写真を撮った時に一緒に写っている人や撮影場所を配慮しなければならない昨今の事情に鑑みて、自動的に写真内に写っている文字や顔を認識して、必要なものにフィルターをかけてくれるアプリケーション。顔にかけるフィルターは表情から感情を抽出して、それをもとにしたスタンプなどで隠してくれたり、数クリックするだけで手間をかけずにフィルタリングできるのがポイント。これからのカメラアプリにそのまま機能を導入できそうです。
利用技術の傾向
今年は新型コロナウイルスの影響もあり、開発ルールの中に対面で集まって開発することを禁止としていました。対面で開発することができない状況で、学生クリエイターたちが作る作品の傾向は大きく変わるのではないか、と予測し、事前に作品の情報や使用言語、技術などを提出してもらいました。
ここから、今の学生クリエイターたちがどんな技術に興味を持っているのかをご紹介していきます。
作品形態
まず、作品の形態について見ていきます。
昨年までは、スマホアプリやWebアプリが大半をしめるなか、電子工作で作成したデバイスとともにアプリケーションを動かすような作品もそれなりに出てきていた印象を受けていました(参考:Hack U 2019の作品傾向)。
ですが、今年度は全作品の90%がソフトウェアのみの作品になっています。この要因となっているのは、対面で集まって開発することが禁止されていたからではないかと考えています。ハードウェアを参加者各々が作らなければ、同様の環境下でテストすることができなかったり、デバッグをするのが大変になるなど、開発を進めていく途中で都度難しい状況が発生します。また、人数分用意するにはコストがかかる、という別の課題もあるため、今回はソフトウェアのみの作品が増えたのではないかと考えられます。
ARやVRなどのxR系のアプリケーションが減ったこともおそらく同じ理由だと考えています。普段であれば研究室で機材を借りることなどもできたと思いますが、多くの学校が登校の自粛を求めている状況に鑑みると仕方がないのかもしれません。
使用言語と技術
続いて使用されていた言語や技術について見ていきます。
作品の傾向からもわかるように、今回はWebアプリが作品の大半をしめていました。その結果、使用言語はJavaScriptがよく使われているのがグラフから見てもわかります。並行してjQueryやVue.js,Reactなどのフレームワークが利用されたのも納得ができます。また、昨年バックエンドで利用されていたPythonもJavaScriptに次いで利用されています。表情や画像を認識させたり、デスクトップアプリそのものの開発、機械学習をさせる際など、今回も多岐にわたって利用されていたと思います。
この中で、今年注目すべきポイントは以下の2点です。
- Firebaseの利用増加
Webアプリケーションが増えることをHack U運営チームで事前に想定していたため、Firebaseを使ってできるだけ手軽にアプリケーションをデプロイさせる方法を参加者にはお伝えしておきました。そこが予想通りだったため、今回は利用が伸びたと言えます。Firebaseを使ったデプロイについては後日ワークショップを行う予定ですので、気になる方はHack Uのconnpassのメンバーになっておいてください。
- テレビ会議の課題を解決するような作品の登場
新型コロナウイルスの影響でテレビ会議が増えたこともあり、これまであまり出てこなかったテレビ会議の課題を解決するような作品が今年のOpen Hack U 2020ではいくらか見ることができました。WebRTCはブラウザー内でP2P通信を使ってボイスチャットやビデオチャットができるようになる技術ですが、その中でも今年はSkyWayのSDKを使った作品が多く出ていました。既存のテレビ会議では、まだまだ課題が多いと感じている人がいることを考えると、この領域は今後盛り上がっていく可能性がありそうです。
デザイン
デザインについては、エンジニアの私が語るよりも、デザイナーであり、審査員を担当していたCTO室の江口が感じたことを記載します。
今回、オンライン開催ならではの一体感として特徴的だったのは、チームでオリジナルのZoom背景を設定して発表に臨んだチームがいくつかあったことです。デザインはおろそかにしがちですが、作品においてデザインとは一番目に触れるところであり、立派な機能のひとつです。オンラインでの開催であれば普段以上にアピールしても良かったと思いました。作品だけでなく、プレゼンスライドやZoom背景をオリジナルのものにして印象づけることは、お手軽かつ効果的なテクニックですのでぜひお試しください。
アプリ関連のデザインに関してですが、最近はプロトタイピングツールがとても使いやすくなり、UIアセットパーツが豊富にそろっています。UI全体を設計するツールでハードルが高いと思われがちですが、パーツだけ書き出して使うといった部分的な使い方もできますので、効果的に活用してみることが、これからのハッカソンでは重要になると感じました。ワンポイントで使うだけで、作品の質が飛躍的にあがります。一方で、作品のなかにはプロトタイピングツール止まりになっているチームもあり、見た目を盛りすぎて機能していない、といった作品も見受けられたのは残念でした。あくまでも補助的に活用して、しっかりと動く作品まで完成させることがHack Uにおいては重要になります。
全体の傾向としては、やはり世相を反映したニューノーマルを課題とした作品が多く、特に例年よりもタスク管理系の作品が増えたように思います。それぞれの作品はアプローチがすべて違い、どれもユニークで使ってみたいと思う作品ばかりでした。今までと違うオンライン中心の学生生活に直面したときに、新しいライフスタイルをどうデザインして乗り越えていくか? といった作品が多く、まさにHackしがいのある時代がきたのだなと、作品を通じて気付かされました。
まとめ
いかがでしたか。今年は情勢に鑑みてオンラインでの発表、対面での開発禁止などいくつかのレギュレーションを変更して開催しました。作品の品質が下がるチームも出てきてしまうのでは、と危惧していましたが、どの作品もそれぞれに素晴らしい点があり、見応えのある発表会でした。今回紹介したのは最優秀賞作品のみですが、発表会の様子はすべて動画で公開していますので、どんな作品があるのか気になった方はご覧ください。
また、冒頭でも書きましたが、今年度は春にもOpen Hack U 2020を開催予定です。時期は現在調整中になりますが、決まり次第Hack UのTwitterアカウントでご案内します。夏の開催には枠が埋まってしまい参加できなかったという学生の皆さんは、よろしければフォローの上、ご案内までお待ちいただければと思います。
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- 学びがある
- わかりやすい
- 新しい視点
ご感想ありがとうございました