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テクノロジー

Yahoo!ショッピングのランキングを構成する特許たち

本記事は2022年11月に開催した「Tech-Verse 2022」で発表したセッションを要約したものです。アーカイブ動画を文末に掲載しています。質疑応答の様子も収録されていますのでぜひご覧ください。

Yahoo!ショッピングは、インターネットショッピングを楽しめるショッピングモールです。幅広い品揃えと多彩なストアが特徴で、PayPayとも連携しているお得なサービスです。

売れ筋ランキングやブランドランキングなどさまざまなランキングが存在し、これらのランキングは、注文情報やレビュー情報などを基に商品に対して順位をつけて作られています。ランキングは欲しいものを探しているユーザーにとって強力な味方であり、ユーザーの購買体験を向上させる一助となっています。

ヤフーを子会社として持つZホールディングスグループでは、特許の取得に力を入れています。下図は、コマース領域におけるZホールディングスグループの特許出願件数の推移です。年々出願件数は増加しています。

Zホールディングスグループの特許出願件数の推移を表した折れ線グラフ

特許が誕生するまでの背景

Yahoo!ショッピングが従来提供していたランキングは、「とにかく値段が安いものが上に出る」「いつ見ても同じような商品ばかりが並んでいる」ことが常態化しており、ユーザーが何度も見たいと思うようなランキングになっていませんでした。競合他社のランキングと比べても、Yahoo!ショッピングのランキングの力は相対的に小さいものでした。

この状況を打開するために、主にデータ、すなわち「ロジックの磨き込み」というアプローチで問題解決に取り組みました。誰が見ても素晴らしいと思える最強のランキングを作るために、ランキングを生成する組成を変えたり、割合を変えたり、さまざまなロジックを作ったり、それをチューニングしたりして、テストを実施していきました。

しかし、そうした試みは大きな成果を上げられませんでした。理由は、ユーザーによって求めるランキングが違っているからです。例えば、お得な商品が好きで流行を追いかけたいユーザーと、値段よりも品質を重視しロングセラー商品に信頼を置くユーザーとでは、求めるランキングが違います。万人が良いと思うランキングの作成は不可能に近く、ベターなものは作れても、ベストにはならないことが分かりました。

そこで、「指標の変更」と「アプローチの変更」という2つのドラスティックな転換を行うことにしました。

1つ目の「指標の変更」は、CVR史上主義を撤廃することです。従来のランキングでは、『来訪したユーザーのうち、どれぐらいの割合のユーザーが商品を購入してくれたのか(=CVR)』をターゲット指標にしていました。しかし、CVRだけを追い求めると、どうしても低価格のものを上に出せば良いという結論に行き着くことが分かったのです。ただ単に低単価の商品が上に出ているだけのランキングは、素晴らしいランキングとは言えません。そのため、これからのランキングでは、CVRだけではなく、複数のさまざまな指標を追いかけることとしました。

2つ目の「アプローチの変更」では、『最強のランキングロジック』を追い求めるという方針を捨てました。その代わりに、『ランキングを使った最適なUI/UXとは何か』という点を中心に、ランキングの見せ方を工夫したり、ユーザーの行動に合わせて最適化したりするなど、さまざまな改善のアプローチをかけていくことにしました。

こうした方針の転換により、ランキングの形は大きく変わり、最適なUI/UXを検討していく上で、これまでになかったさまざまなアイデアをいくつも生み出すことができました。その多くは特許として認められ、Yahoo!ショッピングのランキングは多数の特許によって守られるようになりました。

ランキングに関する特許

ランキングを改善していく過程で取得したさまざまな特許の中から、「融合」「切り口」「表示形式」「集約」「先回り」「ブースト」の6つの特許について今回紹介します。

融合

ランキングにどうユーザーを呼び込むのかを考えた結果、生まれたのが「融合」に関する特許です。本特許の要点は、「ECサイトやオークションサイトで検索を行った際に、検索結果とその結果に対応するランキングコンテンツをタブによって提示する」ということです。

一般的に、ECサイトで買い物をする際には、まず欲しいものを検索して、商品を見て、カートに入れて購入する、という動きをすることが多く、Yahoo!ショッピングでは、この動きを「主導線」と呼んでいます。

ランキングは主導線にはないものの、ユーザーの購買体験に対する影響が高いことが分かっています。有効性が高いにもかかわらず、ランキングコンテンツはこれまで主導線と離れたところに存在し、うまく活用できていないという課題がありました。

この課題を解決するために行ったのが、検索ページとランキングページの融合です。検索とランキングの自由でスムーズな往来を実現し、その双方から自在に商品を探すことができるユーザー体験を提供することにしました。これにより主導線の中で自然な形でランキングを活用できると考えました。

切り口

雑多な情報をきれいに整理することで、ユーザーに価値を届けたい。そのようなアイデアから生まれたのが「切り口」に関する特許です。本特許の要点は、「まず、ユーザーによって入力された検索キーワードの意図を読み取り、次に読み取った意図によってさまざまな切り口を構築し、組み合わせて提供する」ということです。

ランキングを利用するユーザーは、必ずしも欲しいものが明確になっているわけではありません。例えば、「誕生日プレゼント」「バレンタイン」のようなシチュエーションに対する何らかの商品を欲している場合や、「洗濯機」のようにカテゴリだけが決まっていて、詳細な商品イメージがない場合などもあります。

欲しいものが明確になるように整理して提示するため、カテゴリが分からないというユーザーにはカテゴリを、ブランドがよく分からないというユーザーにはブランドをそれぞれ整理して提示します。場合によっては、カテゴリやブランドなどを組み合わせて提示します。そうすることで、ユーザーにとって欲しいものを見つけやすくしています。

例えば、「ふるさと納税」で検索したユーザーに対しては、まずカテゴリで整理したランキングを提案し、次に価格で整理したランキングを提案しています。こうすることで、さまざまな商品の選択肢をユーザーに提案し、ユーザーは提案された選択肢の中から欲しい商品のイメージをどんどん絞っていくことができます。

別の例を挙げます。「Lenovo PC」で検索したユーザーの場合、カテゴリ名、ブランド名がワードに含まれているため、このユーザーは欲しい商品がある程度具体化されていると言えます。こうしたユーザーに対しては、検索キーワードから推定されるカテゴリ、ブランドであらかじめ絞り込みを行ったランキングを提案します。

また、LenovoのPCは1種類ではなく、同じLenovoのPCでもCPUやOSといったスペックの違いがあります。ある程度買いたいものが明確なユーザーに対しても、スペックごとに整理したランキングを提示するなど、豊富な選択肢を提案しています。

表示形式

ユーザーに対する最適なランキングの見せ方はどのようなものなのかを考えた末に生まれたのが「表示形式」に関する特許です。本特許の要点は、「まず検索クエリに応じてクエリの意図を推定し、判定された意図に応じて違う形式のランキングを出し分ける」ということです。このとき、形式の中身については問いません。

商品を買うとき、買い手が重視する情報は多種多様で、決め手になる情報も人それぞれ違います。例えば、「出産祝い」というキーワードで商品を探しているユーザーは、検索キーワードからは、「具体的な商品のイメージが想起できていないのではないか」ということが想像できます。この場合、ユーザーは一つひとつの商品の違いに関心があるというより、出産祝いに適した商品はどのようなものなのか、ざっくりとした情報が知りたい、という傾向があることが定性調査から見えてきました。

こうしたユーザーのさまざまなニーズに応えるために着目したのが表示形式です。検索されたキーワードの意図を解釈することで、「リスト形式」と「グリッド形式」という2種類の表示形式を動的に出し分け、ユーザーが求めている最適な情報粒度によるランキングを提供しています。

リスト形式は、商品に関連する多様な情報を見せられることが最大の魅力で、ユーザーが求めている商品がある程度明確になっていて、一つひとつの商品情報を詳しく求めているユーザーや、商品を比較して納得のいく一品を見つけたいユーザーに適したものです。

一方のグリッド形式は、リスト形式とは反対に多くの商品を同時に見せることができます。買いたいものがあまり具体的に定まっておらず、ウインドーショッピングのように多くの商品を見比べたいユーザーや、新たな発見を求めているユーザーに適した見せ方です。

Yahoo!ショッピングは、「たくさんの商品があって何でも揃う」というのがコンセプトの1つです。しかし、たくさんの商品があると、ユーザーがどれを選べばよいのか迷ってしまうという事態になることもあります。こうしたユーザーに対して、選択しやすい状態を提供することがランキングの価値の一つです。本特許によるリストとグリッドの出し分けは、その価値を高める一翼を担っています。

集約

同じ商品が並んだ退屈なランキングになることを防ぎ、バラエティー豊かなランキングを出すために考えられたのが「集約」に関する特許です。本特許の要点は、「ランキングを生成する際に、同一商品をまとめた『製品』とまとまっていない『商品』を混合させ、『製品』『商品』の区別なく、同一軸でランキングを提出する」ということです。

Yahoo!ショッピングのようなモール型のサービスでは、同じ商品を複数のストアが販売することがよくあります。このため、モール型サービスにおけるランキングでは、ある特定の人気商品がさまざまなストアから大量に出品された場合、同じ商品でランキングが埋め尽くされるという事象がしばしば発生します。

同一の商品でランキングが埋め尽くされた場合、ユーザーの体験はどのようなものになるでしょうか。例えば、その商品を買いたいユーザーにとっては、どのストアで購入すれば良いか比較できるため、価値があるとも言えます。しかし、一方でこの商品に興味がなかったり、すでに持っていたりするユーザーにとっては、あまり有益なランキングとは言えません。これはモール型サービスのランキングにとって、長年の課題の一つでした。

本特許は、同じ商品をまとめるというシンプルなアプローチです。単純に商品を一つに削るというわけではなく、きちんと全ての商品の順位などを考慮して、一つの製品としてスコアリングを行います。

最終的に生成されるランキングにおいては、製品としてまとめられたものも、商品のままのものも同一軸で同じランキングの中に掲出する。そうしたランキングの提供を実現しました。

先回り

ランキングを通じて、居心地の良い体験を提供するための方法や、ランキングのファンを増やすために考えられたのが「先回り」に関する特許です。本特許の要点は、「ユーザーがクエリを基に検索処理を実行したとき、ユーザー情報と入力されたクエリ情報に基づいてユーザーに適したランキングを生成・提供する」ということです。

この特許の機能は、いわばランキングのパーソナライズです。ランキングを利用しているユーザーの情報と入力された検索クエリの情報から、最適なランキングを生成します。

例えば、「ドライブが趣味である」ということが分かっているユーザーが「消臭剤」という検索ワードを入力した場合に、車に最適な消臭剤のランキングを表示させることが可能です。別の例を挙げると、「バルサミコ酢を購入した」ことが分かっているユーザーが「ふるさと納税」のランキングを探しているときに、「バルサミコ酢に合う食材で、ふるさと納税で買えるもの」のランキングを表示することが可能になります。このように、ユーザーの過去の体験を基にした最適なランキングの提案を実現することが本特許の強みです。

バルサミコ酢に合う食材をすぐさま頭に思い浮かべられる人は、料理好きなごく一部の人に限られるでしょう。そうした、人には思いつかないような食材のランキングを先回りして提案することも考えられます。

ユーザーにとって本当に必要な情報、求めている情報が載っているランキングを先回りして提示することで、ユーザーにとって使いやすい、居心地が良い、また見てみたいと思えるランキングの実現を目指しています。

ブースト

今までにない新しいランキングとは何か。そのような未来につながるアイデアをもとに生み出されたのが「ブースト」に関する特許です。本特許の要点は、「ランキングに対して何らかのトリガーをもとに、ランキングをブーストさせるタイミングを決定する」というものです。ブーストとは、ある特定の情報をトリガーとして、スコアリングを動的に変化させることを指します。販売数などの注文情報、売れ行きなどのトレンド情報、PV数やレビュー情報、SNSの「バズり度指標」、こうした情報がトリガーになり得ます。

このトリガー情報を基にブーストさせることを、私たちは「トレンドブースト」と呼んでいます。通常、ランキングとブーストは、それほど相性が良いわけではありません。頻繁に順位が変動し、見るたびに中身がガラッと変わるランキングは、ランキングの上位に来ている商品が本当に人気なのかどうか、信頼性が疑われることも考えられるからです。

しかし、頻繁に順位が変動するブーストされたランキングに使い道がないわけではありません。例えば、トレンドを先取りして、これから売れるものをランキング上位に上げる、あるいはSNSなどで急激に人気が高まっている商品をリアルタイムに確認できるランキングを生成するなど、世の中の流行をいち早く取り入れたランキングを作ることができれば、今までにない新たなランキングの価値を創造できると私たちは考えています。

現状存在しているランキングは、過去を表したランキングです。過去人気だったものや過去売れたもの、ランキングはその性質から過去の栄冠を表すというのがセオリーです。しかし、ブーストに関する特許をうまく活用すると、過去ではなく未来の情報を先取りしたランキングを実現できると考えています。

特許によってもたらされた効果

最後に、これらの特許を含むランキングの成果について紹介します。

下図は、従来Yahoo!ショッピングに存在したランキングページと、今回紹介した特許を含む新たな施策によって展開されたランキングページのCVRの比較です。

CVRの推移を表した折れ線グラフ。新たな施策を盛り込んだ結果、従来と比較して151%の成果が出ている

前述の通り、新たなランキングは、指標としてCVRだけを追いかけているわけではありません。しかし、UI/UXの追求を行った結果、従来のランキングよりCVRでも良い成果を残すことができました。

また、ランキングページへの外部流入、すなわち検索エンジンなどからのランキングページへの流入の数の推移も増加しています。パソコン、スマートフォンの双方から流入が増加し、特にスマートフォンに関してはかなり増加しています。

ランキングページへの流入数の推移を表した折れ線グラフ。従来と比較して4568%の成果が出ている

このように、特許を含む施策が、Yahoo!ショッピングのランキングを飛躍させる原動力となっています。

この記事ではランキングに関連する六つの特許を紹介しましたが、ヤフーが持っている特許はこれだけではなく、ランキングに関するナレッジを多く持っています。今後もより良いランキングを目指して、日々まい進してまいります。

アーカイブ動画

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稲垣 竜
バックエンドエンジニア
入社から一貫して、Yahoo!ショッピングのランキング改善に従事。現在はランキングPFの開発責任者として日々ランキングの未来について考え中。
今野 彩音
デザイナー
検索・商品ページを主に担当するチームに所属し、UI/UXの改善を行う。お買い物体験をより良いものにするため日々奮闘中。

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