テクノロジー

2020.09.14

オンラインでの新卒研修の作り方〜アジャイル研修について

アジャイルコーチの荒瀬中人です。
2020年度の新卒アジャイル研修の講師を担当しました。

今年の新卒の研修は基本的にオンラインで行っています。オンライン研修はニューノーマルな時代においてのスタンダードになりつつあり私自身この研修を通して発見したことや学びが多かったので、オンライン研修の参考になれば幸いと思い執筆しました。

アジャイル研修とは

新卒エンジニア研修を終えて配属されたあとに、希望のあった組織の新卒(以下、受講者)に対して行うオプションの研修です。
今回は以下の2つの研修コースを実施しました。
1つ目は私たちの方で研修を計画するコース、2つ目は組織側のリクエスト内容に沿って計画するコースです。
本ブログは計11回実施した1つ目の私たちが計画したコースを紹介します。

研修の目的

この研修のゴールはアジャイル開発の背景と手法(Scrum)、進め方を理解する事です。
市場やものづくりの変化を歴史的背景を踏まえながら伝えつつ、アジャイル開発の言葉の定義、Scrumのルールや進め方を実践をイメージしながら理解してもらいます。
ただし、Scrumは経験的プロセス制御の理論(経験主義)を基本にしています。要は行動(経験)しながら学ぼう! ということです。
研修も同様に講師の話を一方的に聞き知識を得るだけでなく、経験しながら学べる研修を目指しました。

研修内容について

研修の目的やゴールを満たすために受講者に寄り添う研修にし、1回の研修を事前に計画する部分とリアルタイムで進めていく部分の両方で構成したハイブリッド型の作りにしました。

事前に計画した部分

開発の背景や、原則など、アジャイル開発をする上で知っておいてほしいことは事前に進行や研修内容を計画しました。
以下は事前に計画した内容とスライドの一部です。 どのような話をしたのか少しだけご紹介します。

  • Agile開発の背景
  • Agile開発とScrum
  • Scrumの原則

アジャイル開発がなぜ増えたのかを知ってもらうために、市場やものづくりの歴史的背景から話しました。 Agile開発の背景

開発の内容に入る前に、全員の知識を一定にするためアジャイル開発とScrumの歴史やそれぞれの言葉の定義、用語やルールなど基本的な事についてもお話ししています。
Agile開発とScrum

Scrumの3本柱と実践しているチーム状況、Scrumを通して目指す状態について話しました。
これによってチームビルディングが進めやすくなります。
Scrumの原則

上記に併せて今後受講者がScrumを選択する、または止める時に、Scrumが得意とする領域や良いScrumチームの状態、Scrumを進める上での注意点、オススメチーム構成や失敗しやすいパターンなども話しました。
この計画した部分はこれまでの通常の研修の場合と比べて、オンライン化するにあたりスライドを見る参加者の視線の誘導で課題を感じました。

リアルタイム計画

次にリアルタイムに計画した部分ですが、クイズやワーク、質疑応答のなかで、受講者の理解や興味を把握し配属先の状況を考慮した上で研修を設計しました。
多くの場合、受講者同士の話し合いの上で学びたいことを提案してもらい、さらには学びたい順に優先順位付けしてもらうという方法を取りました。私はそれらの内容や理由を聞き、研修目的と照らし合わせて座学、ワークショップを設計しました。
全11回の受講者の成果物です。各回ごとにワークテーマが異なります。
ワークショップアウトプット

研修を行う上で気をつけたこと

ここからは研修を進める上で行ったことついて書きます。
オンラインでの研修のため事前に準備したことや、研修を行う中で気づいたことなどを紹介します。

事前準備

以下のツールを検討した結果、今回使用したツールは、研修をインタラクティブに進めたい受講者をセッションで分けられるといった機能を満たしていることからZoomと、アカウント登録不要で付箋紙機能、ホワイトボード機能が充実しているMiroです。
事前にオンラインツールを複数使用し、チームで検証し決定しました。

Zoomはすでにヤフーで利用可能であることとMiroは使い勝手の良さが決め手となりました。

講師の表情、伝え方

受講者が講師から得る情報はオフラインとオンラインでは異なります。オフラインではスライド、講師の言葉、表情や手ぶりから情報を得ますが、オンラインでは講師の表情、話し方がより鮮明に映ります。
普段から気をつけていますが話し方(文節の間に挟む「えーと」などの癖、語尾の長さ、語感の強さ、話すスピード、発音の強弱)はオンラインではヘッドホンをしている方もいてより顕著に届き、ノイズになりやすいです。
Zoomには録画機能がありますので毎度研修動画を見返しながら自分の癖を見つけては改善しました。
また、表情についてですが相槌、頷きは言葉以外の意思表示にもなりますので、積極的に活用しました。

行動の見える化

研修中は、Zoomチャット機能を使用したりMiroに書き込んだりします。書き込み中は講師の状態はフリーズしているように見え、通信不良と勘違いされる場合があります。話す以外の動作は事前にお伝えする、

画面共有するなど受講者に講師の行動を見える化しました。
例えば「Zoomのチャットに書きます」「Miroに書きますので、画面共有します」など、行動に移る前に自分のこれからの動作を伝えることを意識しました。
またスライドのポインタ機能を使い受講者が迷子にならないよう気をつけました。

研修中の質問の仕方

研修をスムーズに進めるため、必要以上に受講者の反応を求めない質問の仕方を心がけました。
例えば、Miro利用時、「Miroを操作できますか?」では、トラブルが起こらない限り全員が反応しなくてはなりません。
受講者は自身の音声をミュートしている場合があります。ミュート解除する、チャットに書き込むなどアクションが増えてしまいます。
質問を「Miroを操作できない方いらっしゃいますか?」に変えると大半の受講者は反応せずに済み、それを確認する講師の負担も減ります。
また、オンライン研修はパソコンに向かう会う時間が長いので姿勢が辛くなります。最低限1時間に一度は休憩をとりますが、それ以外で自由に離席、ストレッチをしていただくことを推奨しました。

インタラクティブ(対話形式)な進め方

私の研修は受講者が疑問に思ったことをその場で解決したいので、基本的にセミナー中でもグループワーク中でも、いつでも質問を受け付けています。
メモを取る時間よりも、対話で理解を深めてもらいたいので、使用するスライドもメモする必要がないように研修後お配りします。
クイズを実施したり、Scrum実践しているチームの写真や事例を紹介したりし、受講者との対話が増えるように意識しました。
また質問も、「なぜPOは1人?」などより深堀する質問や、「AcceptanceCriteriaが不明確だとどんなことが起こりそう!?」などプラクティスを想像する質問をするなど対話を増やす進め方を心がけました。

運営スタッフとの連携

運営スタッフとは設計段階から協働しました。講師が研修に専念できるよう、ツールの操作やタイムマネージメント、受講者のフォローなど研修以外の部分をお任せしました。
ワークなどはリアルタイムに計画し実行するので、運営スタッフと事前にグループワークを想定したツールの操作や、トラブル時の対応など連携について認識を合わせました。
運営スタッフがサポートしてくれた内容を一部紹介します。

- 通信不良による講師の声が途切れるときや周囲の環境により雑音が多い時は、講師に状況を伝えテキストにて実況フォローする
- タイムマネージメントは基本的に講師が担当するが、状況をみて休憩の提案をする
- 参加者の挙手や通信不良によるZoom退室時、講師に連絡する
- 講師のパソコン環境のトラブルによるZoom退室時は受講者に10分間の休憩を伝える
- グループは事前に決めるが講師の要望があれば変更する
- ブレイクアウトルームの設定、グループ分けを担当する

グループワーク

私は受講者同士の協働作業や議論、工夫をとても大事にしているので、グループワークの進め方、ファシリテーションはある程度、受講者に委ねています。
オンラインのグループワークはZoomのブレイクアウトルーム機能を使いました。
この機能は大変便利ですが、講師が一度に全てのグループを見ることができません。オフライン研修では研修全体を観察し、時にグループに入り議論の発散、収束のサポートしますが、オンライン研修ではなるべく講師が介入しなくて済むようグループの最大人数を5名としました。
また、グループワークの手順を詳細に決めると受講者同士の進め方の工夫や議論が少なくなります。そこで手順を詳細化するのではなく、ワークアウトプットを小さくしました。
ワークのアウトプットを小さくすることで、受講者が能動的に行動しやすくなり、またワーク進行の大部分を受講者に委ねることが可能になります。

研修結果

受講者写真:PantherMedia/イメージマート
オンラインでの研修という初めての試みでしたが、自発的に行動してくれる受講者によって研修がより良いものになりました。
グループワークをリードしたり、研修後も残り質問したり、後日相談に来てくれる方もいました。
対話を通して私自身、気づきや学びが多かったです。
研修後のアンケートを少しご紹介します。


  • スクラムの理解が曖昧だったので、今回のワークを通して深く理解することができた
  • 資料も非常にわかりやすく、午後に実践する項目を自分たちで主体的に決めるいう流れが、これまでの“聞くだけ”になりがちだった研修と違い良かった
  • 知識を実践に落とし込むイメージところまで理解が深まった
  • 講義の質問に対して参加者全員で議論したことや、簡単な演習などを行うことで、アジャイルを習得することの困難さを理解することができた
  • 一方的な講義ではなく、双方向かつ少人数の講義だったため発言もしやすく普段の講義に比べ学ぶことができたと感じた
  • 研修はとても分かりやすく、今まで曖昧にしか理解できていなかったAgileやScrumの内容がしっかりと理解できた(具体例を示していただけた点が特に良かった)
  • 実際に体験するフェーズがあって、身をもって難しさを知ることができてよかった
  • 対話やグループワークを何度かしていただいたり、質問にも丁寧に回答していただけて、他の研修と比較して理解度、納得度が高かったように感じた
  • 今回アジャイル開発の講義を受講して少し難しそうだと感じましたが、これを開発に取り入れ実戦経験を積むことで、開発効率が上がるのではないかと感じた
  • 講師の方が質問をしやすい環境を整えてくださったので、質問しやすく理解を深めることができた

まとめ

まとめ写真:アフロ
今回初めてのオンライン研修でしたが、それまでの研修と同様に悲観的に準備し、楽観的に対処する姿勢で臨みましたが、オンライン研修はオフライン研修と比べて事前準備、受講者とのコミュニケーション方法、状態の可視化、運営スタッフとの連携に違いがありました。
これらのことはオフライン研修時からある程度は注意していますが、オンライン研修ならではの最適解がなく、毎回、研修録画を見返したり、運営スタッフと振り返りを実施し少しずつ改善しました。
もしかすると、今回一番学びが大きかったのは私かもしれません。
最初から全てを予想できない状況下、周りと協働、学習、改善しながらより良くする。ニューノーマルな時代でも変わらないスタンダードではないでしょうか。

謝辞

今研修をサポートしていただいた運営スタッフ、アジャイルコーチ、研修に送り出してくれたOJT担当、そして受講していただいた新卒の方々,講師として至らないところが多々ございましたが、皆様のおかげで無事研修を終えました。
この場を借りて深く御礼申し上げます。


荒瀬 中人
アジャイルコーチ
ヤフー、関連会社に関わらず、会社、組織、オフショア開発などのマルチロケーションでのアジャイル開発支援。

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