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テクノロジー

中国のスマホ事情について考察する

こんにちは。Yahoo! JAPAN Tech Advent Calendar 2017の12月7日を担当します、メディアカンパニー 新規領域推進室の里山です。

普段の業務としては複数のアプリ開発プロジェクトの進行支援や新規アプリの企画などを行っていますが、2017年10月より、「新規性・話題性・将来性」といったヤフーの魅力をサービス横断で発信する役割である「クリエイターエバンジェリスト」として、社外に対して登壇や執筆する活動を行っています。

今回は、カンファレンス参加のために行った中国北京で体験したスマホ事情について紹介・考察してみたいと思います。

トップカンファレンス・テックイベント参加支援制度

私たちが技術開発を行う上で、最新の技術情報を得るために海外の情報を必要とする場面は常に起こりえます。国内にいながらインターネットで情報を得ること事体は容易ですが、ときには情報を得るだけでは感じることのできない現地の動きのようなものを感じることも大事なことです。そのような場合には、海外の技術カンファレンスに参加するのが一番だと思います。

私は2017年5月にGoogleのAndroid系最大のカンファレンスであるGoogle I/O 2017に参加してきました。基調講演の中で、KotlinがAndroidのサポート言語に追加されたことが発表されたときの会場の大きなうねり・揺れのようなものは、今でもはっきりと覚えています。技術のトレンドを追う中でそのような場面を肌で感じておくことは、エンジニアにとってときには行動を変える原動力にもなりえます。

ヤフーでは、海外カンファレンスに参加する場合、それぞれの所属本部の予算を確保して参加することが基本ですが、一部の大規模なカンファレンスに関しては、全社共通の制度である「トップカンファレンス・テックイベント参加支援制度」を利用することができます。参加後、セミナーを開催してレポーティングすることが必須ですが、入社年度に関係なく利用することが可能です。

私は今回この制度を利用し、世界中で開催されているAndroidカンファレンスであるdroidconの中国開催、「droidcon Beijing 2017」に参加して来ました。

droidcon Beijing 2017 概要

droidcon Beijing 2017は、11/16-17の2日間、北京のBeijing Yulong International Hotelで開催されました。中国のITの中心といえば、「アジアのシリコンバレー」と呼ばれる広東省深センが有名ですが、droidconが北京で開催されていたのは個人的には少し意外な感じがしました。

会場となったBeijing Yulong International Hotel

2日間で3会場35セッションが開催された

もうひとつ意外なことは、facebookがカンファレンスパートナーとして名前を連ねていたことでした。中国は政策としてインターネットの検閲システムにより、Googleやfacebookが利用できないのは有名ですが、実際にカンファレンスではfacebookのエンジニアによるアプリの軽量化に関するセッションなどもあり、今後中国での利用動向に変化があるのかなと想像させられるような事案でした。

facebookのセッションは画像の最適化によるアプリの軽量化の話

droidconは他国開催される場合、ソフトウエアエンジニアリングに関する内容が中心なのですが、VR/ARの機器周りに関する事や、モバイル向けのディープラーニングのセッションなどもあり、カンファレンステーマの細分化が進んでいないかもしれないなと感じつつ、中国企業の多様性を感じるような内容が多かったのも印象的でした。

世界的にはスライドのコードサンプルにKotlinが利用されることが多くなってきていますが、droidcon BeijingではKotlinのベスト・プラクティス的なセッションがひとつあっただけで、他は基本的にJavaのコードサンプルがほとんどでした。このあたりはこれからなのかもしれません。

一番辛かったのは、スライドとスピーカーの言語のほとんどが中国語で、理解に苦しんだことです。droidconは国際会議の位置付けのため、4月に参加したdroidcon VietNamでもすべてのスライド、スピーカーが英語ベースだったのですが、カンファレンス内容の国際化はこれからのようです。(現在社内レポートのために、スライドの写真を元に翻訳しながら調査しているところです。)

中国でのスマホ体験

今回、直近でdroidcon SFなども開催されていた中で、中国を選んだ理由のひとつが、中国のスマホの利用状況が異次元のレベルであると聞いていたことです。実際に肌で現地の利用動向を体験したいという思いがあり、念入りに体験のための準備をしていきました。実際に体験してきた中で、特に印象深かった内容をいくつか紹介します。

なんでもかんでもSMS認証

中国に行く前に、Google Playでいくつかの中国のアプリをインストールしてユーザー登録しました。気づいたのはどのアプリも基本的に登録フォームでは電話番号の入力が必須となっていたことでした。SMS認証が必ず行われるからです。また、北京滞在初日に、外出先で急遽会社にメールをする必要があり、ケンタッキーのFree Wi-Fiを利用したのですが、そのときもSMS認証が必須でした。

日本だとここまでSMS認証が使われているイメージがないので少し調べてみたのですが、中国では、2017年6月1日より「中華人民共和国網絡安全法」と呼ばれるインターネットの安全利用に関する法律が施行されています。その中で、インターネットサービスに関わる事業者は正しく実名登録するために個人情報をユーザーに要求することが義務づけられており、その実名登録のオプションとして、SMS認証が存在するようです。中国の政策がこのような形でサービスの形態に組み込まれているのかと思わされました。

アプリの垂直統合化

純粋な単体アプリも数多くありますが、個人的に感じたのは、ひとつのアプリに複数のサービスが入っている「垂直統合型」のアプリが多い印象を感じました。例えばこの後の2次元バーコード決済の話でも出て来るWeChatなどは、ウォレット画面にサードパーティーがサービスモジュールを提供しています。

WeChatはウォレットにサードパーティーサービスを統合 (WeChatアプリのスクリーンショット)

また、中国のTwitterことweiboも、ウォレット機能やフィットネス機能など、コア機能以外のサービスが拡充されています。

weiboも複数のサービスを統合 (weiboアプリのスクリーンショット)

他にも、ctripという旅行アプリは飲食店や移動手段、ホテルなどの予約機能をまとめており、旅行文脈での複数サービスの一元化という意味では垂直統合型と言って良いのではないかと思います。

ctripは旅行文脈でのサービスを統合 (ctripアプリのスクリーンショット)

日本国内をみてみると、私たちYahoo! JAPANは、ウエブポータルを出自としたサービスアセットの有効活用の観点から垂直統合型のアプリを提供していますが、LINEなどもアプリにいろいろなサービスを統合し始めています。

このようなアプリは、起動する想起の多様化によりさまざまな特性のユーザーを集めることができるわけですが、中国の方にいろいろお話を聞いてみると、同じ事ができるアプリが複数あった場合、タップ数が少なく目的を達成できるものを結局は開くという使い分けをしていると伺いました。想起多様化とUXの掛け合わせの観点はこれからの競争力の争点として出て来るのではないかと感じました。

シェアサイクル

中国の公道には大量の自転車が置いてあります。これらはすべて「シェアサイクル」と呼ばれるものです。いくつか業者が存在していますが、オレンジ色の自転車の「mobike」と黄色の自転車「ofo」をよく見かけます。

公道でオレンジと黄色の自転車が目につく

合併協議報道も上がっている両社ですが、現地の方に聞いてみると、mobikeが大きくシェアを持っていた状況の中で、利用料やデポジット額の安さから、ほぼ同時期であるものの後発のofoが急激に伸びてきたという事情のようです。これらのシェアサイクルはスマホで簡単にレンタルして乗ることができます。降りるときも公道で駐車して施錠すればOKです。日本からmobikeアプリをダウンロードすることができたためあらかじめユーザー登録をしておき、現地で利用してみました。

【ビデオ】mobikeでロック解除

使うまでのプロセスも非常に簡単です。最初から最後まで他人の目が介在しないため気軽に使える印象を受けました。一部道路をこれらの自転車が埋め尽くしている場所もありますが、業者の方が自転車が足りない場所へ移動させている風景もよく見ましたし、うまく整理されているようです。

2次元バーコード決済

中国へ行くと、いたるところで2次元バーコードを見つけます。それが、市場やお土産屋さんの露店でもです。これらは2次元バーコードによるスマホ決済の入り口となっています。大きくは2つの決済サービスがしのぎを削っており、ひとつはアリババの提供するAlipay(アリペイ)と、テンセントが提供するWeChat Pay(ウィーチャットペイ)です。近年日本国内の量販店やデパート、決済事業者が相次いで提携しはじめているため、名前を聞いたことのある方は多いでしょう。

AlipayとWeChat Payの2次元バーコードが街中にあふれている

WeChat Payを利用できるWeChatアプリは日本でもダウンロードすることが可能で、Payment機能を有効化できたので、実際に中国でいくつか買い物体験してみました。次のビデオは、初日にお願いした日本語ガイドさんに決済してもらったものを録画したものです。

【ビデオ】WeChat Payでの買い物

上記の買い物はビデオを撮るために私のお土産代をガイドさんに支払いしてもらったのですが、WeChat Payでの個人間送金ですぐに返しました。このあたりの手軽さも非常に便利だと感じます。

このときの手順としては、「お店のアカウントを2次元バーコードから読み込む」→「お店の人に言われた額を入力して送金」→「結果画面を見せる」という形でしたが、お茶屋さんでお茶を買ったときは、お店のPOSレジに対して、自分のスマホからバーコードを提示して読み込んでもらって決済が行われました。デビッドカードを読み込んでもらうような感覚に近いです。

お店の状況によって手段に多様性があるのが特徴的です。

また、中国中のお店で2次元バーコード決済は対応されており、ガイドさんも「いざというときの100元を裸で持ち歩いているだけで、お財布は持ち歩いていない」と言っていました。日本は中国に比べてスマホ決済格差があると言われるのも納得します。

中国の2次元バーコード決済を日本と比較してみる

日本の電子マネー決済といえば、SuicaやEdyなどの「FeliCa」方式の決済方法ですが、これらと中国の決済事情の違いについて考察してみたいと思います。

FeliCaの特徴は残高や履歴がカード/チップ側にも保持される点

FeliCaはNFCという近距離無線通信規格を利用しています。NFCは13.56MHzの周波数帯を利用したICタグの通信仕様をまとめたもので、taspoなどに使われるNFC-TypeA、免許証やマイナンバーカードなどに使われているNFC-TypeB、FeliCaに利用されているNFC-TypeFなどがあります。FeliCaはNFC-TypeFをエアプロトコルとして利用していますが、FeliCaの仕様体系はそれだけではなく、Suicaのようなカードや、おサイフケータイなどに入っているチップに残高などを書き込むファイル管理やセキュリティ確保のための仕様を含んでいます。読み書きの速度の面で最適化されているため、利用時に高速で決済が可能となっており、鉄道の改札などで利用出来るのがメリットだといえます。

一方で、中国の決済事情とくらべて以下の面でデメリットがあると考えられます。

  • 決済手段の多様化に弱く、店舗側の都合によって読み取り側、読み取られ側として切り替えるような事が出来ない
  • オフライン決済に最適化されており、少なくとも現時点ではオンライン決済に利用しづらく、利用サービスの多様性が限られる

店舗側の初期投資の差

先に述べたデメリットが、店舗への普及拡大への障害となっていると考えられます。中国ではPOSレジを持っているところはスマホに表示したバーコードを読み取らせてデビットカードのように扱うことが出来ますし、露店などの店舗はお店のアカウントの2次元バーコードを印刷して置いておけば、先ほどビデオで紹介したように、個人間送金の延長線上のような形で支払いを済ませることが可能になります。決済システムがコモディティ化されているのです。

NFCのカードリーダー事体の価格は高くはないと思いますが、コモディティ化されていない決済システムの利用まで考えると店舗毎のイニシャルコストやランニングコストの壁は大きいでしょう。

Apple PayとAndroid Pay

今後の流れを考えてみると、Apple Pay、Android Payの方向性が興味深いです。Appleが提供する決済プラットフォームであるApple PayはFeliCaチップを端末に載せることで、FeliCa決済に対応しました。Googleが提供する決済プラットフォームであるAndroid PayはFeliCaをチップなしにエミュレーションする技術(HCE-F)を採用してFeliCa決済に対応しました。

Apple Pay(左)とAndroid Pay(右)

(画像引用)

個人的な観測で言うと、GoogleもAppleも、既存のリアル決済手段をまとめてインフラを整えるために対応しているのだと考えられます。どちらのシステムも複数の電子マネーやクレジットカードを登録することが出来るため、結果的にそれぞれの決済インフラに電子マネーやクレジットカードを載せることができれば、オンライン、オフラインすべての決済がひとつのアプリ/アカウントを利用して行うことが可能になります。

残高を集約することになるので、仮に中国のように2次元バーコードベースの決済手段が拡大すれば、Apple PayもAndroid Payも決済の入り口のいち手段として対応するのではないでしょうか。Apple PayやAndroid Payに対応するサービス提供事業者も連携先が集約されるメリットがありそうです。

国内では他にもLINE Pay、楽天 Pay、Origami Payなど複数の決済事業者がいますが、いずれもクラウド側に残高を持つ形で提供されています。既存の電子マネーとクレジットカードの連携数と、オンライン、オフラインの提携先の数次第では、日本の商習慣にローカライズされた決済手段として拡大する可能性も考えられます。

まとめ

今回は、中国で体験したスマホ事情の紹介と、決済事情について日本との比較から考察してみました。中国は2次元バーコードの普及が非常に進んでいます。TVを見てても大きく2次元バーコードが出てくるくらいです。この2次元バーコードの内容をキーにしてスマホの利用手段につなげていくアイディアにあふれている事例が数多くあることを感じました。特に、スマホの決済シェアでは、中国は日本のはるか先を行っているのは紛れもない事実です。中国の政策による積極的な支援も後押ししているものと考えられます。

日本は逆にGoogleやAppleといったグローバルなプラットフォーマによる決済インフラの一元化の波が来ています。それとは別に国内の決済事業者も今後大きく展開していくことが想定されており、競争の波の中、グローバル基準の決済スキームが定着するか、それとも日本にローカライズされたより便利な決済手段が登場するか、今後の動向に注目だといえます。いずれにしても電子マネー残高やクレジットカード情報がクラウドで管理され、決済手段の多様化に対応する方向に進むのではないでしょうか。

中国の一部都市は第2のシリコンバレーと呼ばれていますが、カンファレンスに参加して感じたソフトウェア開発の状況は、日本の方がグローバルな情報が得やすい分、進んでいるのではないかと思える場面もいくつかありました。他国との比較から自分たちのビジネスの強みを考えてみるという意味では、中国は非常に興味深い国だと感じています。

最後に

私たちヤフーは、常に変化し続ける新たな市場環境を考えながら、一緒にITを通して日本の課題を解決していける人材を求めています。国内では圧倒的なユーザー規模を持つサービスを開発できる責任とやりがいは、あなたのキャリアにおける大きなステップとなるでしょう。

募集職種一覧はこちらからご確認ください。

※ 記事中に登場する会社名、サービス名、アプリ名、プラットフォーム名などは、運営されている各社の商標または登録商標です。

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