こんにちは! スクラムマスターの中原(PayPayカード株式会社)、岩井(ヤフー株式会社)、そしてアジャイルコーチの荒瀬(ヤフー株式会社)です。
私たちは、PayPayカードの会員サービス開発を大規模スクラムで進めています。PayPayカードとは、クレジットカード加盟店で通常のクレジットカード決済ができることに加え、PayPayアプリと併用することによってPayPay加盟店であと払い決済が利用できるサービスです。「圧倒的No.1のサービスをすべてのお客さまに!」というビジョンを掲げており、ユーザーファーストにサービスを提供することを心掛けています。
より早く質の高いプロダクトをお客様に提供するために、ヤフーとPayPayカードの2社が協力してよりスケールした組織となりスクラムを実践しました。組織のスケール化を体験した私たちが、スケールするときの困難や、それを乗り越えた方法についてご紹介します。スクラムチームの立ち上げや、すでに実践中のスクラムチームに参加するような方にとってお役に立てれば幸いです。
ヤフーとPayPayカードのスクラム実践前の状況
まずはPayPayカードチームのスクラムマスターの中原からお話しします。
PayPayカードチームはヤフーチームと大規模スクラムを行う前、ウォーターフォール開発で案件を進めていました。ウォーターフォール開発で案件を進めていく中で問題視されていたのが、開発期間の長さです。さまざまな関係部署の方と案件を進めていく中でそれぞれの作業領域が縦割りになっており、前段の作業が完全に終了してからでないと次の作業に進めないため、サービスインまでのリードタイムが長くなっていました。
PayPayカードチームがヤフースクラムに参加に至った経緯
私たちPayPayカードチームがスクラムに挑戦するきっかけとなったのは、あるチームメンバーからの「スクラム面白そう!」という一言でした。ヤフーチームがスクラムを実践し、短期間のサイクルでリリースを行っている姿を見ての提案でした。
当時のPayPayカードチームと比較するとリリースだけでなく、テスト・障害対応・運用の見直しなどあらゆる面において最適化されていると感じました。また、PayPayカードチームはこれまでウォーターフォール開発でバックエンド中心に開発を行っていました。ですが、サービスインまでの期間短縮のため、領域に囚われずフロントエンドを含めたより広範囲な開発技術の習得が必要です。ヤフーチームと一緒にスクラム開発を行うことで、技術習得につながる期待もしていました。とはいえスクラムは本やネットで調べた知識しかないので、ヤフーのCTO室技術戦略推進部に相談しアジャイルコーチとして荒瀬さんにサポートいただけることになりました。
参加するまでの準備
初めに荒瀬さんに私たちの拠点に来ていただき、チームメンバーにスクラム開発の概要やスクラムイベントの目的などを説明していただきました。説明していただいた知識を体系化するために、実際の案件をPayPayカードチームだけでスクラムで対応してみました。
スクラム実践して気づいたこと
それまで私たちは作業をまとまった単位に分業し、個々に担当していました。しかしスクラムを実践する際は、全ての作業は事前に担当を決めずに誰でも着手します。
これまではタスク管理として電子ツールを使用していました。が、それだとタスクの状態を一目で把握しづらく、さらにはタスクがフローしているのか、何か課題があって停滞しているのか、リアクティブに気づきづらいのです。そこでホワイトボードを使用し、タスクや全ての情報の階層がないよう、一目で状況が理解できるようにしました。チームの側に置いたため、視認しやすく、誰もがすぐにタスクの状態を確認できます。ホワイトボードだとレイアウトを自分たちで自由にアレンジできますので、掲示板みたいに気軽にメモや課題を残せたり、スプリントゴールまでのプロセスを表現したスプリントバックログに変更するなど、視覚から得られる情報の最適化を進めました。
現在はMiroを使っていますが、以下を大事に日々レイアウトの改善を行なっています。
- 誰でも理解しやすいレイアウト
- 必要な情報が集約されている
- リアクティブな情報管理
このような試行錯誤を行いながらチームメンバー全員で意思決定し、計画→実行→改善というイテレーションのスクラムを経験しました。
この間、私はスクラムマスターとしてチームメンバーから一歩引き、俯瞰した状態でチームを観察することを意識しました。とはいえ開発者として発言することもあるため、チームメンバー寄りの発言・思考に陥ることが多く、その都度荒瀬さんにスクラムマスターの視野、視点について矯正していただきました。対話する度にハッとさせられる気付きがあり、スクラムマスターとはミーティングの進行やチームメンバーに指示する役割ではなく、いかにスムーズにタスクをフローさせチームの障害となる出来事を検知し除去するかという視点が大切であることを学びました。
ヤフーチームと合流するまでの期間は、初めてのスクラム・初めてのスクラムマスターを経験し、スクラムの基礎部分を学びながらチーム作りを行いました。当時はこの様にホワイトボードを活用してスクラムイベントを行っていました。
参加してから起こったこと
ヤフーチームとジョインして初めての案件は、既存のチームに加わる形でのヤフーの開発環境、という新たな体制・環境でスタートしました。
チームがジョインする前は馴染みあるチームメンバー全員で出社して顔をあわせていましたが、ヤフーチームはリモートでZoomを使用してのコミュニケーションです。かつ初めてのメンバーということで、PayPayカードメンバーはスクラムイベントや仕様検討でも遠慮してしまい思うように発言できずにいました。チームメンバー自身もこの状況を打破したいという気持ちはありましたが、開発スキル・開発環境の知識に差を感じる中、ヤフーチームと対等な議論は難しく発言を躊躇してしまう自分たちに悔しい思いをしました。
また開発面ではスクラムの利点を取り入れようと、MVP単位で開発できるよう計画を立てました。しかしPayPayカードチームの経験不足とリリーススケジュールに余裕がなかったことから、MVP単位で進めるための学習する時間がなく、プロダクトをMVP単位で開発することを断念いたしました。結果的にコンポーネントごとで開発を進める形となってしまい、早くリリースしユーザーの意見を取り入れるといったスクラムのメリットを活かすことができませんでした。ヤフーチームと初めて一緒に担った案件では、新しいチームメンバーと案件を進める難しさとスクラムを活用した目指す姿を自分達が実現していく難しさを痛感しました。
一緒に進めて起こったこと
ここからはヤフーチームのスクラムマスターの岩井がお話しします。
一方迎え入れるヤフー側では、会社や組織が異なることに付随するさまざまな方法の違いに困惑しました。同じタスクについても完了の定義がずれていることから品質に差が生じたり、それを指摘するために頻繁なコミュニケーションが求められることで、チームメンバーが負担に感じることもありました。当時のことを振り返ると、一つのプロダクトを異なる会社間で共同で取り組むことは難しいのではないかと考えたことは少なくありませんでした。
合同チームとして何をしたか
2つのフィーチャーチームが合同で1つの案件を進めるため、スクラムイベントを整理しました。ただ、PayPayカードチームとヤフーチームの間で、ドメイン知識に差があったことから一部のイベントを共同で実施することが良いと考えました。特にリファインメントを合同で実施し、要件や仕様それに付随する知識の均一化を進めました。リファイメントを通してPBIのサイズ感や難易度を相互に理解でき、難易度が高いPBIに対してPayPayカードチームへのフォローも計画することができました。
また、見積もりに対して実績に乖離があるものは、乖離した理由が技術力によるものであれば、学習する仕組みを整理したりフォローする取り組みを決めたりしました。このような施策を実施する上では、あるべき理想のスクラムと現実のメンバーのレベルや組織の事情も考慮した上で、アジャイルの原則を理解しつつも、具体的な運用フローとセットで提案すること、あるべきやり方ではなく、組織における課題や、現状をもとに段階的なハードルを設定することが必要だと学びを得ました。
スクラムマスターとしての壁
ここからは、私たちスクラムマスターが共通して感じたことです。
期日がタイトな案件を進めていくことと同様に、周囲からの信頼がない状況でのスクラムマスターという役割を担うことに壁を感じました。チームに対して、自分よりキャリアを積んだメンバーの方がより正しい意見を持っているのではないか、自分が「コーチング」など可能なものだろうかなど葛藤があり、自分の意見をチームに対して積極的に発信することに躊躇がありました。このことは、私たちが開発者を兼任しながらのスクラムマスターとして、開発者としてチームに対して期待以上の成果を出すことができておらず、チームから信頼を得られていない状況によるものだと感じます。特に私たちのように年次の若い人がスクラムマスターを実施するとぶつかる壁ではないでしょうか(私たちは入社2年目です)。
壁の乗り越え方
そこでこれらの課題に対して、3つの施策を試行錯誤して取り組みました。
1.アジャイル・スクラムに関するインプット
自分で関連する書籍を読んでインプットしたり、荒瀬さんに推薦いただいた書籍などを読んでインプットしました。同時に書籍などで得た知識は、実際の業務の場面や自分のチームの課題を想定してアウトプットすることを心がけました。特にMiroを用いて図式化することで、思考を整理することができ、自分がチームに説明する際に非常に役立ちました。
(TOCを活用したボトルネックの説明)
2.障害の除去
スクラムマスターとして、すべての責務を果たすことは非常に困難に感じます。それは、スクラム・アジャイルの知識に精通し、それを教えるだけはありません。チームワークを良くするために関係性を向上する取り組みや組織がアジャイルになるために上層部に働きかけたり、求められることはたくさんあります。
そこで、自分がスクラムマスターとして何をまず果たすことのできるかについて考え、チームが責任のスプリントゴールの達成における障害の除去についてできることがあれば、すぐに行動に移しました。
3.アジャイルコーチとの1on1
こちらが最も効果が大きかったと思います。「ジャストインタイム」ではありませんが、チームを観察していただき実際に起きた事象に対して、どのような見立てをするのか、またどんな視点を持ってそれを見るのか、あるいは、扱うのか、アジャイルコーチである荒瀬さんと頻繁に話し合い打ち手を決めました。時には荒瀬さんがスクラムマスター役になり、私がチームになってシミュレーションし打ち手を試すことも自信につながりました。
また、自分の引き出し(スキル)を状況によって使い分けることができるスクラムマスターとなるため、メタスキルの習得を行っています。どのようなメタスキルを取得したいか意見を出し、メタスキルのイメージを共通のものにするためジェスチャーで表現をしています。自分が挑戦したいメタスキルをピックアップし、実際に実践してみた結果を共有し学習を繰り返しています。
現状の体制や進め方は
PayPayカードチームとして大規模スクラム(LeSS)チームの1チームとなり、単独で案件を担当するようになりました。現在のチームは技術メンバーのみ固定で、企画・制作メンバーは案件単位で流動的にアサインされるため、チームメンバー間の信頼関係を築くことが難しい状況です。このようなメンバー間の関係性ができていないチームで結果だけを求めて行動してしまうと、望ましくない結果に対して対立・押し付けや他責が発生し悪循環なサイクルとなってしまいます。
実際にチームの結成当初、1週間の振り返りを行うタイミングで目標が達成できなかった原因を淡々と話し合う、楽しくない振り返りが続いていました。初めて関わる人ばかりであるため、チームから思うように意見が出ず思い悩んでいるタイミングで、荒瀬さんからチームの関係性の大切さについて教えていただきました。
そこで関係性の質を向上させる取り組みとして、各スクラムイベントの初めにチームメンバーの発言の機会を作りミーティングでの発言のハードルを下げる目的で各々の感情を場に出してもらうチェックインや、これから行うスクラムイベントの雰囲気をチームメンバーで決定するDTA(Designed Team Alliance)を取り入れています。(DTAの出典:CRR Global Japan ORSC®プログラム)これらの取り組みを行うことによって関係性の質が向上し、質問・相談への躊躇が軽減され、チームメンバーで決定した方針でスクラムイベントを行うことができています。
また、各職種で作業範囲を固定化せず職種に関わらず助け合いのできるチームとなるため、企画-制作-技術間のタスク滞留をできるだけなくし、無駄なくタスクがフローするために、スプリントプランニングでは企画-制作-技術の成果物の引き継ぎを明確にしています。例えば、どんな成果物が、いつ頃、どこに保管され、どのように引き継いでいくか、また誰でも作業できるタスクはどれかなどを話し合います。そしてデイリースクラムでは引き継ぎに変更がないか、課題や改善したいことがないかの話し合いもします。実際にチームの意見が反映されたDTAは以下のようになります。
スクラムマスターとして半年を振り返って
今までウォーターフォールを経験してきたメンバーのみのチームだったため、初めのうちはウォーターフォールのように案件の初めに全体の調査・設計を行ったり、ストーリーに必要のないタスクを行ったりと遠回りすることがありました。ですが、徐々にスクラム本来の目的を理解しチームが自ら取捨選択できるようになった時、チームの成長を感じることができました。
また、ヤフーチームと一緒にチームで案件を進めていくにあたって、グループではなく共に同じ目標を目指すチームとして関係性を築いていく過程で、自分の殻を破り行動するチームメンバーを見て嬉しく思いました。スクラムマスターとしてコーチングいただく中で、荒瀬さんから伺った言葉で、印象的な言葉があります。要約すれば、チームが日常的に発する言い訳や諦めの言葉に対して迎合するのではなく、困難な状況にみえるなかでも解決に向けて一歩踏み出し、解決可能なハードルを設定することだと理解しています。
これは単にスクラムマスターというスクラムにおける役割を超えて、肝に銘じている考え方です。また、開発者とスクラムマスターの両立という面では半年間実際に兼任してみて改めて両立は難しかったなと感じました。開発とのバランスを保つために時間で線引きし、チームの改善を行う時間と開発を行う時間でしっかり分けるとより集中でき、両立しやすくなると思います。
半年間のサポートを振り返って
アジャイルコーチの荒瀬です。
今回の支援は新規にチーム編成しスクラム実践するのではなく、すでにチームとしての活動歴が長い両チームが協働して大規模スクラムを実践するケースでした。ヤフー、PayPayカード個々のチームスタイルが既にある上での協働でしたが、改善ポイントは大きく二つありました。
一つ目はPayPayカードチームのサポートです。
私がサポート入る前からスクラムは実践されており、メンバー同士の関係性はとても良好でした。一方で長らく同じメンバーでチーム活動し続けたため、チーム外との調整役やスケジュール管理役、設計やレビュー、ドキュメント管理などチーム運営やチーム作業が属人化していました。さらにはウォーターフォールのような工程ごとに並んだプロダクトバックログ、コマンドコントロールによるタスクアサインが常態化していました。
スクラムの特徴でもあるスプリント単位でプロダクトインクリメントが行われておらず、チームメンバー間のコラボレーションも少く、チームによる自己管理も乏しい状況下でスクラムイベントだけがある、形だけスクラムに私は見えました。スプリントレトロスペクティブで話される課題もこのような表面的なスクラム実践から引き起こされていることから、アジャイルなチームマネージメントの考え方やスクラムの役割の整理、イベントの目的の明確化などスクラムの学習から始めました。長い間維持されたチームに変革をもたらすのは、1度の合宿的なイベントでの意識改革や、ドラスティックなプロセス変更ではありません。チームワークについて定期的に勉強会を実施しチームの行動規範を話し合ったり、行動した結果について1on1でふりかえりながら少しずつ変化・変容していきました。
二つ目はPayPayカードチームがヤフーの大規模スクラムに参加した時です。
チーム単位で大規模スクラムチームに参加するとき、スクラム実践することは合意できても、詳細な進め方でコンフリクトが起こることがあります。例えばプロダクトバックログ、スプリントバックログなどの作成物の管理は、チームが大事にしていることによって管理ツールが分かれたりします。計測重視のチームならばJIRAのように自動で計測してくれるツールで管理しますし、視認性を重視するならばMiroなどレイアウトを自由に変えられるツールで管理します。スクラムイベントの進め方や各ロールへ期待することなど、大事にしていることによって小さなズレがたくさん生じます。単にどちらかのスクラムの進め方に寄せるなど急激な変化は、不満やストレスに繋がり軋轢や分断が生まれる危険性があります。
私は各々が大事にしていることをまずは継続できるか、検討することから始めました。スクラム運営コストが多少膨れても最初の時点では良しとしました。組織が変化・変容するのはメンバーの今の考え方から今までにない考え方に変化し意思決定・行動していくことですが、お互いがより良い意思決定するために関係性を向上することに重きを置きました。
以上のようにじっくりと時間をかけてより良い関係性を築き、今までにない考え方から意思決定し行動した結果、新たなチーム文化が醸成された半年間でした。今の両チームの変化・変容している姿を見る限りこの期間は濃い改善期間だったと思います。組織が変化するのは言い換えると属している人の変化です。変化の協力をマネージャーから支援いただくことも少なくありません。例えば今回両社のマネージャーに以下のような支援をしていただきました。
- チームの自主性を重んじ必要な権限や裁量を与える
- 人の成長に投資する
- 学習欲を高める仕組みをつくる
今は共に学習するメンバーも増え、両社の目指す姿に向けた目標を持ち改善しています。
最後に
今後はPayPayカードのビジョンである「 圧倒的No.1のサービスをすべてのお客さまに!」に更に近づくためにプロダクト価値の最大化、リリースの最速化に挑戦しています。これまでよりもさらに早くプロダクトをリリースし市場から学習し、さらに価値のあるプロダクトを顧客に提供できます。より早く・質のいいものをお客様にお届けできるスクラム開発チームを目指して日々改善を積み重ねています。
最後に、ヤフーという組織においては、若手が提案することに対して、一定の根拠や理由があれば、意見を受け入れてもらえたり、課題を一緒に考えてもらえる土壌があります。スクラムのようなコミュニケーションもとりやすい職場ですので、ヤフーの仕事にも興味をもっていただけたら幸いです。
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- 学びがある
- わかりやすい
- 新しい視点
ご感想ありがとうございました
- 中原 法子
- PayPayカード株式会社 ソフトウェアエンジニア
- PayPayカード株式会社でサービスの開発を担当しています。時代に置いていかれないよう流行を頑張って取り入れています。