こんにちは。2020年に新卒入社し、現在はYahoo! JAPANのトップページにて、データプラットフォームエンジニアを担当している高見 玲と申します。
2021年5月28日(金)に、「行動変容のための可視化」というテーマでBonfire Data Analyst#4を開催し、YouTube Liveで配信しました。イベントの企画・運営を通して学んだことをまとめてみました。
Bonfire Data Analystとは?
Bonfire Data Analystとは、Yahoo! JAPANが運営するデータ利活用に関する技術コミュニティです。
「Data Analyst」を冠してはいますが、データと関わりを持つさまざまな業種の方々が、普段の業務や学習でデータ利活用を行う際の課題や、それを取り巻く環境へどのように向き合っているかを共有することで、
- 新しい知見、発見を得る
- コミュニティの輪を広げる
- データ関連のキャリア形成のきっかけを作る
ことを目的としています。
勉強会開催に込めた思い
2020年はCOVID-19のダッシュボードによる感染状況の可視化や米大統領選における当落の速報など、データアナリストに限らず、多様な人々が可視化コンテンツに触れ、行動を変容させた一年でした。そして、このような可視化コンテンツの重要性は今後もさらに重要になっていくと考えられます。
私自身、大学で「データ可視化」を研究していたバックグラウンドもあり、その普及がコロナ禍以降の社会をよりUPDATEしていけるのであれば、ぜひとも貢献したいという気持ちがありました。
また、国内有数のニュースサイトを有するヤフーが主催するデータコミュニティとして、この領域における勉強会を開催する意義は大きいと判断し、可視化の中でも「行動変容」に焦点を当てました。
勉強会のねらいは以下の2つです。
- 「行動変容のための可視化」を体現するプロダクトを実践するための知識を深める
- 必然的にエンジニアやデザイナー、編集・企画のような人々が協業する必要のある「データ可視化」に関する、職種間のコラボレーションを促す
イベントでは、さまざまなドメインで活躍されている皆様にご登壇いただきました。その様子を振り返りたいと思います。
災害大国から防災大国へ グラフィックで振り返る東日本大震災から10年
トップバッターは、弊社のメディア事業にて、グラフィックPJを担当する金原です。ヤフーのグラフィックPJでは、ユーザーに「わかりやすい」という価値を届けるためにデータ可視化を含めた、ニュースなどの解説グラフィックの作成を行っています。
ヤフーが実施した「東日本大震災から10年 のりこえるチカラ」の企画のうち、「知るは、チカラになる」における東日本大震災から10年の歩みと未来の制作プロセスについて解説してもらいました。
コンセプト: 「見えてなかった」10年間の真実を「見える」「わかる」ようにする
「知るは、チカラになる」の中で 「#あれから私は #これから私は」は人の考えや行動に着目しています。これに対して、「東日本大震災から10年の歩みと未来」は俯瞰した目線で社会や事象を可視化することで、被災地以外に住む人々が「見てこなかった、見えてなかった」10年間の真実を「見える」「わかる」ようにする ことをコンセプトとしています。
金原は、コンテンツを通じて実現したいユーザーゴール、すなわち行動変容として「 日本は災害大国であり、災害とどう暮らしていくか 」を伝え、「 危機意識を高め、自分のこととして捉えてもらう 」こと、そして最終的には「 (ユーザー自身が) 話題にする 」ことを挙げていました。
可視化コンテンツのデザインと結果の振り返り
コンセプトをデザインに落とし込むために、いくつかのテーマを設定し、以下の流れに基づいてコンテンツを構成。それに応じてデータを選定したといいます。
- 地震の被害を可視化する
- 写真とテキストによるテーマ導入を行う
- 詳細なファクトを可視化により伝達する
また、デザイン面でのこだわりとして、「グラフや写真だけでなく、防潮堤と人の対比のような、被害がわかるような写真を用いて、報道内容を自分ごとにしてもらう」ことなどが挙げられました。
コンテンツの成果を振り返る指標には、ページのPV数と、ユーザーが到達したグラフィックの位置が採用されました。金原はこれらの指標の分析で得られた知見として、縦方向に長いコンテンツであるが、最後まで見た人 の中には、SNS上でも投稿し、当初狙った 「話題にする」という行動が一定数見られた と話していました。
上記手順を通じて、10年間を振り返り、今後の災害に備えるための効果的な可視化を、統一した色彩やモーショングラフィック・静止画のインサートグラフィックで実現できたように思います。特に、まずメンバーが震災を「見える」「わかる」ようにするために、紀尾井町オフィスと石巻オフィスのメンバーでブレインストーミングを行うことで、効果的に可視化できたという話が印象的でした。これは、震災直後より石巻ベース を立ち上げ、被災地と向き合ってきたヤフーだからできた企画だと思います。
「忘れない」震災犠牲者の行動記録/震災遺族10年の軌跡
2番目の発表では、東京大学渡邉研究室の渡邉英徳教授と、特任研究員のデア・バンコヴァさんより「忘れない:震災遺族10年の軌跡」など、東日本大震災関連の可視化における「行動変容」について発表をいただきました。
地図上にストーリーを紡ぐ: デジタルマッピング
最初に渡邉先生より、岩手日報とのコラボレーションにより作成した、地図表現を用いたデジタルアーカイブに関して発表をいただきました。
震災犠牲者の行動記録
「震災犠牲者の行動記録」は、震災から5年後に公開されたデジタルマップです。岩手県における震災犠牲者の避難行動を、地図上の点の動きと軌跡として表現しています。地図上に表示される軌跡は全て亡くなった人に対応し、一つ一つを掘り下げて確認することで、その悲痛さや、繰り返してはならないというメッセージが伝わると感じました。
渡邉先生はコンセプトを明確化するために、地震発生時と津波到達時の犠牲者の位置のみを利用しました。 他のデータは削ぎ落とすことで、データを用いて伝えたい「願い」がより伝わる ようになったと解説されています。
震災遺族10年の軌跡
「震災犠牲者の行動記録」が 探索型 (explorative) の可視化なのに対して、「震災遺族10年の軌跡 生活再建マップ」は 説明型 (storytelling) の可視化です。
10年間という時間の長さや、語るべきストーリーが多いことに鑑みて、時間の流れに沿って、被災者の方々10年間の移動やできごと、住居種別・転居回数を、震災後のストーリーと合わせて可視化しています。
渡邉先生は、個人の作家として制作を担当した「震災犠牲者の行動記録」は俯瞰的な印象を持つのに対して、複数のクリエイターのコラボレーションによって作成した「生活再建マップ」は人やストーリーに寄り添っている印象があると話されていました。同じデータであっても「 作り手の思いや個性 」によって伝えられるストーリーは変化すると言えそうです。
また、岩手日報と被災者の方々の信頼関係があったから実現できたプロジェクトだと話されていました。このように、「 全てのデータにはバックグラウンドがある 」ことは、私自身も今後心に留めていきたいと思います。
言語分析: 被災者の心理を可視化する
「震災遺族10年の軌跡」は前述の「生活再建マップ」と、震災犠牲者のご遺族へのインタビュー内容を機械学習で分析し、心理状態の変化などを可視化する「言語分析」から構成されます。
言語分析は3章から構成され、それぞれの制作プロセスは、開発担当者である特任研究員のデア・バンコヴァさんに解説いただきました。
避難所、仮設・・・流転の日々 : 被災後の暮らしにおける困りごとの集計結果をエリアチャートや円グラフで可視化し、個別の回答をインタラクティブに確認できます。
住まいの決断 : 震災後の本設住宅再建に至るまでの一人一人の決断に着目し、言及されている単語を集約・可視化しています。
あの人を思う : 「震災で亡くなった方々への思い」では、アンケートの記述内容を、自然言語処理による感情分析と人手による分類結果に基づき、「感謝」や「悲しさ」の観点から可視化しています。「あなたを探して」では、親族における行方不明者の有無ごとに、記述に含まれる単語の出現頻度をワードクラウドで可視化しています。
解説とともに可視化を拝見して、「震災後の大局的な変化の中に、個々人の思いが浮かび上がる」印象を受けました。デアさんは集約の際に 住まいの変化による家族への影響が「ない」という回答が多かったのが意外だった と話されていて、そのような洞察の理由をユーザーが考えられることも、可視化を用いたストーリーテリングの特色ではないかと感じました。
グラフの着色やフォントについても、伝えたいコンセプトの体現に注力されている印象を受けました。
追体験の価値
講演の最後に、渡邉先生は2011年3月11日から24時間のジオタグ付きツイートを可視化した「東日本大震災ツイートマッピング」を題材として、「震災当日に、歩いて家まで帰った」のような 「自分が当事者だった場合にどのような記録を残すか」 を想像することの大切さを語られていました。
「忘れない」の解説の中でも、岩手日報の誌面上で詳細を提示することでよりストーリーが伝わった事例や、対面で解説を行うワークショップを実践した体験を踏まえて「 記憶を追体験する 」ことの重要性が語られていました。
総じて、「一見した分かりやすさ」が優先されがちな昨今のインターネットに対する「ストーリーテリング」の価値を改めて実感できました。このブログを読んでいる皆様にも、内容を読むだけでなく、ぜひ紹介されていた可視化コンテンツを体験していただければ幸いです。
データでまちのにぎわいを可視化する〜自治体様とヤフーの取り組み〜
前半ではデータ報道やストーリーテリングに重きを置いた発表が続きましたが、3番目の発表では弊社のデータソリューション事業に携わる阪上より、自治体とのコラボレーションにおける「行動変容のための可視化」について語ってもらいました。
背景: ヤフーと神戸市の連携
データソリューション事業では、Yahoo! JAPANの多様なサービスから得られる年間約8000万人のビッグデータを活用し、企業や自治体などの企業活動を支援する法人向けサービスを提供しています。その一環として、神戸市の都市再整備計画に関する事例が解説されました。
ヤフーは神戸市と「データドリブンな市政課題解決に関する事業連携協定」を締結しています。現在、神戸市では三宮駅周辺の再整備を実施中であり、施策検討のための現状把握と効果検証のために まちのにぎわいをダッシュボードとして定量的・継続的に計測 しています。
ダッシュボードの構築: まちのにぎわいを定量化する
ダッシュボード作成までの手順として、阪上は以下の4ステップを示していました。
- 目的の明確化: 関係者が同じ定量データを見ることで、認識合わせを行い、データにまつわる思い込みや神話をなくす。
- 視点の整理・指標の決定: 人流を定点観測する際の主要指標「 月間総滞在時間 」を定義し、関連する指標をKPIツリーとして表現する。指標をダッシュボードで可視化するために絵コンテを作成する。
- データの検証: 絵コンテに基づきダッシュボードを作成し、違和感のない結果が得られているかや、データ全体との整合性をエリア間、時点間で比較する。
- 運用と活用: データ活用の支援や周知を行う。
また、データ利活用のために必要なこととして、以下が話されていました。
- BIツール導入で解決とはならず、活用は目的・課題の明確化から
- 良質なデータの蓄積に加えて、システムやツールの整備が必要
- データを見る人は孤独になりがち、コミュニティ化して活躍の場を作ることが重要
- 単体で完璧なデータはなく、定性データも含めて解像度をあげることが重要
弊社のデータと自治体の知見を組み合わせることで、Yahoo! JAPANのミッションである「UPDATE JAPAN」の実現がより具体的になったと感じました。特に、認識合わせや指標の定義を綿密に行い、シナジーを高められた印象を受けました。また、データアナリストの目線から「 都市の課題解決=市民行動の変容 」を促すための施策を解説してもらうことで、勉強会のテーマをより俯瞰して理解できるようになったと思います。
新型コロナのダッシュボードから考えるユーザー体験の設計
最後の発表では、スマートニュース メディア研究所 シニアアソシエイトの荻原 和樹さんより、東洋経済新報社に在籍時に作成し、グッドデザイン賞などを受賞したCOVID-19の国内感染状況データのダッシュボードの制作や、国内におけるデータ報道の現状について発表をいただきました。
行動変容のためのダッシュボード設計: 不安にならず、現状を正確に把握する
荻原さんはダッシュボードが想定するユーザー体験、すなわち行動変容として「 不安にならず、現状を正確に把握する 」ことを挙げ、以下の設計原則を示していました。
- 不安をあおらず、落ち着いた配色を用いる: 例えば、感染者を赤色などで強調すると感染者が多い地域への差別にもつながる
- 可視化工程の透明性を担保する: データを確度の高い厚労省発表の情報に絞る
- 国内の状況に注力する: 「自分や家族、友人が感染する可能性はある?」という問いへの回答に注視し、空港検疫などは含めない
- データに対する解釈や予測はせず、サードパーティーデータも含めない
また、ユーザー体験 (行動変容)の設計こそがダッシュボード構築において一番重要であり、コンセプトに沿ってデータを「 とにかく絞る 」べきだと話されていました。加えて、改善のためのアイデアは、ユーザーの要望自体よりも、反応に宿る ことを話されていました。その際にサン・テグジュペリの著作より引用されていた「 完璧とはそれ以上何も削れなくなった状態を指す 」というフレーズは、可視化コンテンツに関わる全ての人が覚えておくべきだと思いました。
国内におけるデータ報道の現状と展望: オープン化とコラボレーション
後半では、報道とデータ可視化の関係について解説いただきました。荻原さんはデータ報道は ニュースを日頃より追っている層よりも広い読者層に伝わる 、という利点を、感染状況のダッシュボードのPV数が公開から2カ月後に最高値を記録したエピソードとともに話されていました。
また、日本でのデータ報道コンテンツがあまり普及していない理由として指摘されていました。
- 多くの新聞社が紙主体の組織構成を採用しているため、エンジニア以外の職種がデータ可視化を学習する場が少ない
- 報道期間が製造業的なスタンスを持っているため、記事や取材内容が財産として扱われる
これらの課題に対する解決策として、「 オープン化とコラボレーション 」が掲げられていました。
データやソースコードをGitHubで公開したり、メディア研究所で職種間のコラボレーションを促進されたりしている荻原さんの姿勢を伺い、私もメディアサービスに関わるエンジニアとして、貢献できることを探していきたいと思いました。また、記事やデータソースのオープン化は、今後のデータ報道普及のためにも業界全体で向き合うべき課題だと感じました。
おわりに
事前登録が400名以上、当日も300名近くの方に視聴いただく中、さまざまなドメインの発表を通して「行動変容のための可視化」というテーマがより明確になるような素晴らしい勉強会となりました。
それぞれ異なる事例ではありましたが、「行動変容のための可視化」を実現するために重要なこととして次の2つが共通項として挙げられます。
- ユーザーゴール (行動変容)が先 にあり、それを体現するために可視化をデザインする必要がある
- コンセプトに基づき、できるだけ 可視化するデータは絞る
自身としても、今後業務で可視化を扱う中でこれら2つのポイントを念頭に置き、全ての可視化コンテンツは「行動変容」を促すものであることを意識していきたいです。
「行動変容のための可視化」は、アフターコロナや衆院選など、2021年以降も重要であることに変わりありません。 多くの人々に影響を与えると思いますし、さまざまな方より「第二弾もぜひ行ってほしい」という感想をいただくなど注目度も高いため、これからも可視化に関する勉強会を企画していきたいです。
また、今回の勉強会では、エンジニアやデータアナリストの方以外にも、企画・編集や報道関係のように、職種の垣根を超えてさまざまな方々に興味を持っていただけました。データ可視化の普及において、異なるバックグラウンドを持つ方々の コラボレーションの重要性 を再認識できました。そのため、このような勉強会を継続して開催し、可視化コミュニティの発展に貢献したいと考えます。
最後になりますが、登壇を快諾してくださった皆様に改めて感謝を申し上げます。そして、ここまで豪華な勉強会を企画できたのは、年次関係なくテーマに共鳴し、開催を後押ししてくれたヤフーのデータコミュニティがあってこそだと思います。
Yahoo! JAPAN主催の技術・デザインコミュニティ「Bonfire」では、定期的に勉強会を開催しています。connpassで告知していますので、ぜひご参加ください!
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ご感想ありがとうございました