こんにちは、Developer Relations アドボケイトの山本です。昨年末、コープこうべさま、立命館大学さま、そしてヤフーが共同で行った実証実験に関する成果報告会を行いました。今日はその様子をレポートします。
スマホのセンサーログだけで顧客の店内行動を理解できるのか
今回、コープこうべさま、立命館大学さまと共同で行ったのは、スーパーマーケットを舞台にスマホのセンサーログだけで顧客の店内行動を理解するというチャレンジです。
実証実験の背景にはスーパーマーケットの店舗改善にまつわる課題がありました。
商品選定や陳列などの店舗改善を行おうとした際、すぐ思いつく方法としてはPOSデータや売上データの利活用が挙がると思います。ただこれらのデータからは顧客が「購入したもの」は分かるものの、「購入に至らなかったもの」は可視化できません。またいつどこでどんな順番で商品を見たのか、手にとったのかといった「時系列情報」も可視化できませんでした。
コープこうべさまでは、そういった顧客動線を理解するために、現在は店員さんが顧客観察を行うなどして店舗改善にあたっていました。ただ人件費や情報のデジタル化に掛かるコスト、精度面にも課題があり、試行回数が限られてしまっていたそうです。
この課題に対し、立命館大学さまとヤフーで共同研究を進める「屋内測位技術を使って、その人がその場所で何をしているのかというその場にいる目的や理由を解析する」という技術を応用したというのが本実証実験の要旨です。
顧客行動をAIで分析
神戸市にある実店舗で夏・冬の2回に分けて実施した実験の様子について解説がありました。
夏は歩行ルートを正確に計測しその人がその場所で何をしているのかを分類するAIの開発、冬は開発したAIを使って実際の顧客の行動を分析する実験を行ったそうで、冬の実験では来店されたお客様にお声がけして520人以上の方にご協力いただいたとのことでした。
歩行ルートを正確に計測
今回はPDR(Pedestrian Dead Reckoning)と呼ばれる屋内測位の技術を活用したとのことでした。スマホに内蔵される加速度センサーやジャイロセンサーを活用して、人の移動や方向転換を検知するという技術です。
ビーコンやカメラを使った手法なども検討されたそうなのですが、どちらも設置およびメンテナンスのコストが掛かること、またカメラはプライバシーに対する課題もあり、スマホだけで完結する技術を選定したそうです。
スマホにはGPSもありますが、屋内という実験場所の特性(特に今回は地下フロアにあるスーパーマーケットが舞台でした)もあって、PDRを採用したとのことでした。
PDRには誤差が徐々に大きくなっていってしまうという課題がありますが、カーナビでもよく使われている「マップマッチング」という補正技術(道路の上しか車が乗らないように補正する技術。今回はそれと同様に通路にしか人が乗らないように補正する)や、誤差が小さいうちにその人の歩幅を解析しておいて補正に活用するなどの工夫をされたそうです。
その人がその場所で何をしているのかを分類
屋内測位で人の動きが分析可能になった次は、その動きを3つに分類するAIを開発したとのことでした。
- 移動:目的の場所に向かい、周囲の商品などを見ていないような歩行
- 検索:目的地周辺で、商品を見ながら行うゆっくりとした歩行
- 観察:目的地周辺で、商品を立ち止まって見ている動作
さらにその3つの行動を色分けして地図上に可視化することで直感的に分析できるように工夫されていました。
実験結果の考察、経験則との違いはあったのか
発表会の最後に質疑応答の時間があったのですが、その際今回の実証実験の意義として経験則をデータで解き明かすといった旨の話が印象的でした。例えば「滞在時間が長いほど購入単価、品数が多くなる」という通説があるそうなのですが、今回の実験では顧客行動を「移動」「検索」「観察」に分類できたことで、単に滞在時間が長ければいいという訳ではなく、「観察」の時間が大事という傾向が見えてきたそうです。
他にも店舗内を複数のエリアに分割し、例えば野菜コーナーを観察していた人は次に何を観察しに行くのかといったことを弦グラフを使って可視化し、店舗側が思い描くように顧客が行動しているのかという分析も面白かったです。
今まで分からなかった相関や法則を導き出すというのも大切ですが、今回のようになんとなく分かってはいたことを、より詳しい形で理解できるというのもデータ分析の醍醐味ではないかと思いました。
ヤフーの技術的成果物というとWebサービスやスマホアプリという形で目にされることが多いですが、今回のように企業や学校と共同でさまざまな課題を技術で解決できないかというチャレンジにも取り組んでいます。このブログでその一端を少しでも感じていただけたらうれしいです。
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