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テクノロジー

インハウスデザイナーが新規事業を任されたらどうする? Bonfire Design #5 レポート #yjbonfire

新しいサービスや新機能の開発、そんなチャレンジングな場でインハウスデザイナー(企業内デザイナー)はどのように向き合っているか。
実際にインハウスデザイナーでありながら、新規事業案件のデザイナーとして活躍されている方々を登壇者に迎え、リアルな話をお伺いすべく、「インハウスデザイナーと新規事業」をテーマにBonfire Design #5を開催しました。

今回は、eureka, Inc.から「Pairsエンゲージ」を担当された岩崎 花梨さん、Quipper Limitedから「スタディサプリENGLISH」を担当された石黒 勇気さん、株式会社ミクシィから「mocri」を担当された日野 文恵さんをお招きし、それぞれにご担当された新規事業におけるデザインについてのお話をしていただきました。
そして弊社からは「ワイキュー」デザイナーの染矢と野波、「PayPay」アプリデザイナーの藤木が登壇しました。

また、今回のイベントでも弊社デザイナーの坂下がグラフィックレコーディングにてイベントの内容を可視化していきましたので、合わせてご覧ください。

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ライブ配信コンテンツ「ワイキュー」でやったこと

染矢 沙織・野波 淳里 ◆ ヤフー株式会社

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トップバッターは、弊社よりライブ配信コンテンツ「ワイキュー」でデザインを担当している染矢と、ウェブ開発&インタラクションを担当している野波。
ワイキューとは視聴者参加型のライブエンタメクイズで、毎日21:00からYahoo! JAPANアプリ内で生放送しています。

ローンチまで7カ月という短期間、且つメンバーは8人という最低限のリソース状況で始まったワイキューの開発。
集まったメンバーは「ライブ配信」や「クイズ」に対して知識も経験もないという人がほとんど。
まずはその状況を打破するため、朝会時にメンバー全員で既存のクイズサービスを触り倒したとのこと。
これにより、メンバー内でのノウハウも揃い、クイズに興味がなかったメンバーからも「こんなジャンルのクイズがあってもおもしろそう!」といった意見がでるなど、メンバー全員がプロダクトのUX向上を意識するようになったそうです。

また、クイズ番組という特性から、対象ユーザーが明確でないという課題に対し、社内検証として社員向けにオンライン上でのクイズ大会を実施したことで、「クイズ」に対するさまざまなモチベーションのパターンを確認でき、以降の改善にもつなげられたとのこと。 開発の進め方に関しては、短期間でのローンチを目指す上で、コミュニケーション齟齬やそれによる手戻りの発生を防ぐため、「MLP(Minimum Lovable Product)」が検証できることにフォーカスして作り込む機能やデザインを決めていったそう。
また、役割ごとに持っている情報や懸念点の違いが発生しないよう、デザインのラフワイヤを軸に仕様の認識をしていたそうで、認識齟齬があれば都度ワイヤをアップデートしていたとのことでした。

サービスの性質や開発体制に合わせて、どのように開発し、検証するのかの取捨選択を効率よく実行されていた印象でした。

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Pairsエンゲージでつくった「気負わない」世界観のデザイン

岩崎 花梨さん ◆ eureka, Inc.

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2人目は、「Pairsエンゲージ」のデザインを担当されている岩崎さん。
マッチングサービスとして有名なPairsに対し、より結婚を意識したユーザー向けとして提供されているPairsエンゲージは、マッチングサービスと結婚相談所のいいところが両立しているサービスとのこと。

同じPairs、同じマッチングサービスであっても対象ユーザーのゴールは違うため、サービス別にユーザーごとのニーズを明確にした上で、「ユーザーの持つ不安や疑問をコンシェルジュへ気負わず相談できるような空気感をつくる」という方針のもとPairsエンゲージのデザインをされているそう。
例えば、「婚活をする上でのさまざまな不安を相談したい!」というニーズに対し、Pairsエンゲージでは「コンシェルジュが24時間365日サポート」というホスピタリティを提供しています。
その上で「いつでも気負わず相談できる」工夫として、コンシェルジュの写真アイコンを主要な画面の右下で常に表示されるようにし、いつでも相談しやすい導線にしたり、サービスの登録前から利用中まで常にコンシェルジュがサポートしてくれるような印象のデザインにするなど、「気負わない」というところへの配慮を徹底されていました。

また、婚活は生涯のパートナー探しへのアクションにつながるため、1つひとつのアクションにおいてハードルが高くなってしまうというユーザーのメンタルを考慮し、コンシェルジュ写真には「話しかけやすい」印象の女性を選定する、コンシェルジュの言葉づかいにもトンマナを用意するなど、各タッチポイントごとで細やかにデザインされている印象でした。 UIデザイン面でも、「ファーストコンタクト」というマッチングした男女が対面する機会を象徴するアイコンとして「ハート」や「男女のカップル」などデートを想起させるようなアイコンではなく、気軽に会ってみようという気持ちを喚起するために「コーヒーカップ」のアイコンを選定されたそうです。

細やかなユーザーニーズまで汲み取り、デザインで解決されているからこそ、「こっちのサービスを使ってみよう!」と思えるサービスになっているのだなと感心させられる発表内容でした。

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スタディサプリENGLISH ビジネス英語コースのPdM 兼 UXデザイナーとしてやったこと

石黒 勇気さん ◆ Quipper Limited

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3人目は、「スタディサプリENGLISH」でプロダクトマネジャーとUXデザインを担当されている石黒さん。
スタディサプリのビジネス英語コースとして、スタディサプリENGLISHがローンチされました。

インハウスデザイナーが新規事業を担当する上で、「事業理解を深めること」「専門性を活かすこと」「スピード感を持ってデザインすること」の3つが重要であるとお話していた石黒さん。
まずは事業理解のために、ビジネス側で作成されたサービスの起案書(企画書)を読み、企画の背景や売上のシナリオなどを理解していったそう。
さらに、自身だけでなくチームメンバーにも事業理解を深めてもらうため、企業内Wikiなどのメンバーが参照できる箇所に情報をまとめ直したり、事業戦略に沿ったスケジュールや優先度を逆算して整理したりなど、具体的且つ主体的に開発を進めていけるように手を動かしていたそうです。

専門性を活かすという観点では、サービスのコア機能である「トレーニング」部分のプロトタイプを優先して作成し、実際のユーザーで検証。
「シーンの設定が広すぎると、ユーザーが想定外の単語で解答してしまうため、正誤判定しづらい」といった課題がみつかり、「シーンの設定はより限定した状況にする」など改善していったとのこと。

また、トレーニング画面上に掲載されている写真も、想定シーンと乖離がないようにこだわって選定。 アプリUIだけでなく、動画部分のデザインに関しても専門性を活かし、いくつかのパターンを作成した上で実際に撮影テスト〜動画化することで、「ユーザーの視認性×制作コスト×講師のやりやすさ」という3つの観点から見てベストなデザインを選定することができたそうです。

スピード感に関してはワイキュー同様に「MLP(Minimum Lovable Product)」を定義して、プロダクト価値と開発工数という双方の観点から決定していったそうです。

「役割に境目を設けずパフォーマンスできる」というインハウスデザイナーの強みを活かし、事業戦略とユーザー体験の双方からアプローチされて成功しているお話はとても貴重で学びが多かったです。

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デザイナーとしての新規事業チームでのコミュニケーションの取り方

日野 文恵さん ◆ 株式会社ミクシィ

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4人目は、「mocri」のデザインを担当されている日野さん。
mocriは、絵や勉強などの作業をしながら通話する「作業通話」に特化したアプリサービスで、先日β版がリリースされ、今後正式版のリリースが予定されています。

mocriの開発メンバーは5人で、デザイナーは日野さんだけという状況に、最初はチームメンバーにデザインのことをうまく伝え、適切に意思決定していけるのか不安だったそう。
そこで、チームメンバーに対し「自分がどんなデザイナーなのか」を伝える工夫をしたことで、自分がどのようにデザインの仕事に取り組むのかや、得意不得意な領域などをメンバーにも理解してもらえ、とても仕事がしやすくなったそう。
例えば「ドラッカー風エクササイズ」というワークショップをやったことで、普段当たり前に相手に期待していたり、反対に自分が思ってもいない期待を相手に持たれていたり...といった期待のすれ違いが明確になったとのこと。
具体的に、チームメンバーは日野さんに対して「UXデザインの先導」や「ターゲットに刺さるデザイン作り」などのデザイン業務だけでなく、「チームのムードメーカー」などデザイン領域に閉じない期待もあったことに驚いたそうです。

また、状況下別での決定権が誰にあるのかを明確にしたいという方には「権限と責任」というワークショップがおすすめで、自分にはどの範囲まで決定権があるのかが明確に。
同時に「決定権のレベル」というのも決めており、「プロダクトオーナーは助言するが、意思決定はデザイナーが行う」というルールで決定が取り決めるというところまで明示化されているそうです。

その他にも、UIは手描きのラフの段階で共有したり、他のアプリのリサーチを共有したりなど、自分の考えをチームメンバーに早い段階で共有するように日々意識されているとのことでした。

違う職種の人がデザイナーの仕事の進め方について当たり前に理解しているとは限らないので、このようなワークショップを実施することでお互いの期待値を理解できるので、結果としてリードタイムの改善につながりそうだと感じました。

発表スライド:デザイナーとしての新規事業チームでのコミュニケーションの取り方

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PayPayのスピード×ビジネス×デザイン

藤木 恵理 ◆ PayPay株式会社

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最後の登壇者は、PayPay株式会社より「PayPay」アプリのデザインを担当している藤木。
キャッシュレスアプリのPayPayはローンチのタイミングからユーザー数を着実に伸ばしており、現在ファイナンスカテゴリーランキングではApp Store、Google Playともに1位だそうです。(2019年8月28日現在)

そんな話題のPayPayでは、プロダクト責任者やマネジメント層もUXデザインを重視しているため、上流段階の構想でデザイナーも加わり、理想のUXフローを完璧に作り上げてからUIデザインに着手。
UXフローを体現するデザインはPMとデザイナーだけで検討するが、その後、理想案をもとにエンジニアとディスカッションするタイミングで、実現が難しい部分を極限まで削ぎ落とすそう。
また、週1スプリントでのアジャイル開発を取り入れているため、上記の検討も含め、社内での新機能デモが毎週行われており、ローンチ後のアプリリリース回数も10カ月で50回以上というスピード感を保てているそうです。

このような開発体制は最初から取り組まれていたのではなく、立ち上げのタイミングで発生した多くの課題を改善していくうちに形成されていきました。
例えば、インドのPaytm社からアサインされた社員は海外メンバーも多いため、言語の壁があったり、効率化のために1on1を実施していなかったりなど、コミュニケーション面での課題が多い状況だったそう。
同時にマネジメント面でも、アサインに偏りが発生したり、他デザイナーの進捗状況が不明確だったりしたため、共通認識がないまま作業が進み、最後に手戻りが発生するということがよくあったそうです。

現在では、言語のレッスン受講制度やOJT体制の取り入れなどによりコミュニケーション面での課題は改善されていき、マネジメント面でもアサイン機会の均等や夕会の実施などでメンバーのモチベーションが保たれるよう工夫されているとのことでした。

デザイン面でもプロアクティブな印象のPayPayでしたが、開発体制も課題に合わせてどんどんと改善を繰り返していることが伝わる発表内容でした。

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発表終了後の交流会の様子

登壇終了後に行われた交流会では弊社デザイナーの坂下が描き起こしたグラフィックレコーディングを前に、登壇者や参加者同士で登壇内容についての振り返りをしたり、質問をしたりなどで盛り上がりました。

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まとめ

新規事業開発は、最低限のリソース状況で、スピード感を意識しながらも、多くの意思決定をしていく必要があるため、やりがいが大きそうな反面、プレッシャーや課題もあります。
今回の登壇者の方はそういった不安箇所をそのままにすることなく、「どうすれば市場価値のあるプロダクトになるのか」や「どうすれば開発体制が安定するのか」などの問題にしっかりと向き合い、それぞれに工夫し改善されている印象でした。

さまざまな課題ケースが網羅されているため、新規事業案件に関わっているorこれから関わる予定の方はぜひこの記事やリンクの登壇スライドを参考にしていただければと思います。 特に「新規で構想しているプロダクトの市場価値を確認したい」方や「プロダクトのUXデザインをどのように検討したらいいかわからない」という方は、「ワイキュー」、「Pairsエンゲージ」、「スタディサプリENGLISH」の事例を、「開発メンバーとのチームビルディングに課題がある」という方は「mocri」や「PayPay」の事例を読むことで具体的にすべきアクションを見つけられるかもしれません。

執筆: 平井 智子 / 高橋 美羽 / 古山 千穂
写真: 大和田 遼
グラフィックレコーディング: 坂下 愛

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平井 智子

デザイナー

Yahoo!プロモーション広告に関連するデザイン業務を担当。

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