こんにちは、Yahoo! JAPANのCDNを運用している佐藤です。
6月にプレスリリースが掲載されましたが、3月23日から4月3日にかけて第91回選抜高等学校野球大会が行われ、Yahoo! JAPANでは全試合のライブ配信をしていました。今回のライブ配信では弊社初の試みとしてIPv6を用いた動画配信を行いましたので、ライブ配信の構成やIPv6も含めたリクエスト傾向について紹介します。
ライブ配信に向けての準備
試合日程は3月23日から4月3日の11日間でしたが、ライブ配信は3月14日のキャプテントークや3月15日の組み合わせ抽選会でも行っていました。コンテンツの配信周りはCDNチームを始めとしたインフラ部門が担当しており、主にCDNチームが担当した内容は下記の通りです。
- メディア部署との調整
- 新しいCDN環境の構築
- 高負荷時の負荷分散対策の準備
配信に向けてのCDN環境は、現在トップページやニュースページなど多数のサービスが使用しているCDNとは別に専用の物理サーバーを用意したため、サーバー発注やネットワーク構築も含め準備は数カ月前から行っていました。
高負荷時にトラフィックを分散させる対策も用意しており、今回マルチCDNとして他社CDNをバックアッププランに用いました。これまでも他社CDNを利用したことはありましたが、同時並列に大規模なライブ配信で利用することは今回が初めてでした。
ライブ配信の構成
図1に今回のライブ配信の簡単な構成を示します。
視聴者からのリクエストはGSLB(Global Server Load Balancing)で負荷分散され、後続のCDNへ送られます。試合映像を受け取りエンコードしている部分をオリジンとしたCDNを、弊社CDNと他社CDNの2つ用意し、GSLBによってどちらのCDNへリクエストを振り分けるか決まるようにしていました。GSLBでリクエストの一定の割合をバックアップ用の他社CDN側へ送るようにすることにより、2つのCDNを組み合わせたマルチCDNを実現しました。CDNへの振り分け方法を重み付きラウンドロビンとすることで、各CDNへのリクエスト傾向になるべく偏りが出ないようにしつつ、それぞれのCDNへ送られるリクエスト数を制御していました。CDNがリクエストを受ける前のGSLBの段階で振り分けを行うことでそれぞれのCDNは互いの詳細を知る必要なく独立して運用することができ、管理は楽でした。しかし、他社側に振り分けられたリクエストについては弊社CDN内のログからでは内容を知る方法が無くなりますので振り分ける割合や他のログと組み合わせて確認する形になりました。
ライブ配信に限りませんが、1回限りのイベントというのは失敗したら取り返しがつかないので配信期間中はライブやモニタリング情報を注視していました。
リクエストの傾向
プッシュ通知等による誘導の他、3月23日の開会式から第1試合、4月2日の準決勝、4月3日の決勝戦ではパソコンからの閲覧時のみですが、Yahoo! JAPANトップページにも動画プレーヤーが掲載され多くの方に視聴していただきました。全試合日程を通しての弊社CDNのピークリクエスト数とトラフィック量の推移を図2に示します。また、リクエスト数の中のIPv6の割合を図3に示します。
図2は最も値の小さかった3/30の値を1としたリクエスト数、トラフィック量の比を表しています。最もリクエスト数が多かったのは意外にも準決勝で、次点で決勝戦でした。リクエスト数やトラフィック量についてはマルチCDNにより負荷分散された後の量です。随時CDNの振り分け割合を変更していたので日ごとの単純な比較はできませんが、準決勝時は他の試合日と比較してリクエスト数で最大15倍、トラフィック量で最大9倍くらいの大きな値となりました。
IPv6のリクエスト数の割合は15%~26%となり、平均は19%でした。あまり大きな値にならなかったのは、モバイルからの視聴が割合として多くなかったことが一因と考えられます。携帯電話事業者が提供する4GやLTEを利用しているとデフォルトでIPv6を利用していることもありますが、今回の配信では平日の日中という時間帯や、準決勝、決勝戦でのパソコンからの視聴の多さもあり、モバイルでのIPv6利用者が割合として少なく現れたのではと考えます。
次に、一番リクエスト数の多かった準決勝の時のリクエスト数とトラフィック量の推移を図4に示します。
リクエスト数とトラフィック量はおおよそ同じ傾向で推移し、ピークが2カ所に現れていることがわかります。このピークの時間はそれぞれ準決勝の第1試合と第2試合のヤマ場にあたり、試合の展開がリクエスト数やトラフィック量にも影響を及ぼしているであろうことが窺えます。第1試合の方が負荷としては大きめであることはお昼に差し掛かっているために、より多くの人が視聴できる時間帯だったからだと考えます。
10:00から急激に値が伸びていますが、この時間はパソコン版Yahoo! JAPANトップページに動画プレーヤーが掲載され始めた時間です。プレーヤーは自動再生するようになっていたため、この時間の変化はほとんどがトップページを開いた方の分だと思います。短時間に一気に数値が伸びている様を目の当たりにして、改めてYahoo! JAPANというサービスがたくさんの方に利用されているんだなぁと実感しました。
次に、準決勝戦時のリクエストから集計したユーザーエージェントの割合を図5, 6に、さらにIPv6のみに絞った場合のユーザーエージェントの割合を図7, 8に示します。
図5, 6はIPアドレスの種別を分けずに集計した場合のデバイス別、ブラウザー別ユーザーエージェントの割合です。デバイス別の割合ではWindowsが大部分を占めていました。他、割合として多かったのはMacやiPhone, iPadでした。野球というコンテンツの性質や平日の日中という時間帯、また、パソコン版Yahoo! JAPAN利用者も多数含まれることから、このようなWindows多数の結果になったのだと考えられます。
ブラウザー別の割合ではIEが最大となりました。次にChromeやEdgeのブラウザーが多く見られました。準決勝、決勝戦ではパソコン版Yahoo! JAPANトップページに動画プレーヤーが掲載されたことから、主にパソコンからのYahoo! JAPANユーザーの傾向が強く現れているようです。実際、今回のライブ配信に限らず、Yahoo! JAPANのユーザーはWindowsやIEが多いです。その他は、OperaやVivaldi, Androidのデフォルトブラウザーが多く見られました。
IPv6に絞ったユーザーエージェントの割合については、全体の傾向としてデバイス別、ブラウザー別の割合に大きな変化は見られませんでしたが、デバイス別ではiPhoneがMacの割合を上回り、ブラウザー別ではIEの割合が50%を下回りEdgeの割合が大きくなっていました。
IPv6リクエストの割合とデバイス別ユーザーエージェントの割合から、モバイルと思われるIPv6リクエストは約1~2%と、全体としては小さいものと推測できます。今回のライブ配信のようなパソコンからの利用者が多数を占める傾向を持つコンテンツにおいては、IPv6の割合はパソコンのIPv6利用状況に左右され、インターネットサービスプロバイダーがパソコン向けに提供するIPv6環境の普及と共にIPv6利用者も増加していくと考えられます。
一方、ユーザーの多くがスマートフォンから利用するようなスマートフォン向けコンテンツにおいては、ユーザー数の増加と共にIPv6利用者も増加していくと考えられます。最近発売されているスマートフォンはIPv6を標準サポートしています。IPv6に対応したインフラを整えモバイル向けコンテンツを拡充していくことでIPv6利用者は増加していくと考えられます。
まとめ
第91回選抜高等学校野球大会の試合のライブ動画を弊社CDNから配信したことについて、ライブ配信の構成やリクエストの傾向を紹介しました。弊社初の試みとしてIPv6を用いた動画配信を行い、平均約19%の割合でIPv6のリクエストがあったことを紹介しました。
最後に、今回のライブ配信において多大なるご協力をいただきました毎日新聞社様、毎日放送様に厚く御礼申し上げます。弊社メディア部署の皆さんや構築・運用に協力いただいたサイトオペレーション本部の皆さんありがとうございました。
今後はさまざまなコンテンツ、より大きなトラフィックを安定して提供することのできるインフラを構築することで、IPv6の利用の拡大に貢献していきたいです。
こちらの記事のご感想を聞かせください。
- 学びがある
- わかりやすい
- 新しい視点
ご感想ありがとうございました