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テクノロジー

全社員フリーアドレスオフィスにおけるクリエイターの働き方

こんにちは、CTOの藤門(@mikanmarusan)です。

Yahoo! JAPANは、10月に東京本社を東京ミッドタウンから東京ガーデンテラス紀尾井町へ移転しました。移転にあたり「インターネットを取り巻く環境の変化にあわせて働き方を変えること」「イノベーションを生み出すこと」を重視し、中でも大きな特徴となるのは机を不規則に配置した「フリーアドレス制」の導入となります。東京本社勤務の全社員約5,700名が、20フロアある執務エリアの好きな場所で働くことができます。

本日は、Yahoo! JAPANのオフィス環境の変化における「ものづくり」に携わる2,500名以上のクリエイターの働き方や試行錯誤についてご紹介します。

2016年5月: 先行移転組はYahoo! JAPANのサービスを支えるエンジニアたち

紀尾井町新オフィスへの移転は、先行移転組と本格移転組と大きく2段階に分けて実施しました。先行移転組には、インフラエンジニア、プラットフォームエンジニア、データ基盤エンジニアやサイエンティストといったYahoo! JAPANのサービスを支えるクリエイターたち約500名が選ばれました。エンジニアの中でもSoR(System of Record)をメインの領域とするエンジニアたちです。
一般的には、オフィススペースの利用効率という観点で、営業など外出や出張などが多く日中の在席率が低い部門でフリーアドレスがマッチしやすいと言われるようですが、先行移転組はソフトウェア開発をバリバリに行うエンジニアがメインでした。ある意味真逆のタイプでのフリーアドレスへの挑戦とも言えました。

「活発な議論」と「静かに開発」を両立しなければいけない問題

座席をジグザグに配置しあえて歩きにくくしていることもあり、社員同士のコミュニケーションも幾分多くなったと聞いています。壁面の一部は全面ホワイトボードになっているため、その場で議論する様子が活発に見られるようになりましたし、プロジェクトごとにスクラムのカンバン(Scrum-ban)が多く並ぶようになりました。

その一方で「クリエイターが集中して作業できない」という声も挙がり始めました。そこで、1人用の座席「集中ブース」を使ったり、フロアのローカルルールとして「Quietエリア」を作ったりすることで、空間にメリハリをつけるといったそれぞれ自律的な変化がされていきました。

スクラムの風景

クリエイターは持ち物が多い問題

クリエイターは持ち物が多い生き物でもあります。

  • 愛着のあるキーボード
  • こだわりのディスプレイ
  • 山積みの参考書
  • たくさんのガジェット
  • お気に入りのフィギュア

移転前は個人のデスクにこれらをどどーんと並べておくのがクリエイターの1つの嗜みでもありましたが、フリーアドレス制では、個人の荷物は割り当てられたロッカーに片付けて帰宅する必要があります。いわゆるクリアデスクというものです。移転の際に断捨離を試みるも、ロッカーに荷物が入りきらないケースが続出しました。実際、本格移転組が移転時に持っていくことのできる荷物はダンボール1箱分だけとなりました。

一方で、最高の道具があってこそ最高のパフォーマンスを発揮できるという側面もありますし、リユースサービスを提供している法人としても大量にゴミが出るのも考えものですのでいくつかの工夫をしています。

  • 書籍
    • 共有の本棚を設置し並べていく
  • ディスプレイ
    • ディスプレイ置き場(専用スペース)を用意。出社時にそこからディスプレイを持っていき、帰宅時にそこに置いて帰宅
  • その他
    • 安易に捨てず社員同士で頑張ってリユース

ディスプレイ置き場

ちなみに帰宅しているときにPCの充電をしておきたいんだけど。
ご安心ください。ロッカーにPCをしまったまま充電をすることができます。

ロッカー

先行移転ゆえの問題

他にも先行移転組特有の問題に直面しました。

  • 他の工事中フロアの工事音が爆音でつらすぎる問題
  • 他拠点とのビデオ会議が不慣れすぎてあたふたする問題
  • セキュリティレベルの高い情報を扱う専用の部屋が先行2フロアになく、必要に応じて東京ミッドタウンに行く必要があった問題

Yahoo! JAPANには、Node.jsを利用して開発されたコミュニケーションツール「MYM」というものがあり、このような問題はすぐにMYMの専用の部屋(slackでいうchannelみたいなもの)に書き込まれ、オフィス担当者にフィードバックされるという流れができていました。もちろん適切なフィードバックだけなく、不満や愚痴といったものもたくさんありましたが、これらも含めてYahoo! JAPANという集合体であるのもまた真実です。

最終的には先行移転組のクリエイターの多くは新しいオフィス環境に無事慣れることができ、いよいよ本格移転組の移転が始まります。

2016年9月: いよいよ全社員の移転開始

先行移転組の移転から約4ヶ月後、9月からいよいよ本格移転組の移転が始まりました。毎週、約1,000名ずつ、1ヶ月をかけて東京本社勤務の約5,000人の社員の大移転です。紀尾井町オフィスに社員が増えてくると同時に、先行移転ではあまり大きな問題にならなかった課題が露呈し始めました。

エレベータ大混雑問題

Yahoo! JAPANはフレックスタイム制を導入している部門が多くあります。そのため、フレックスタイム勤務のコアタイム開始前になると想像をはるかに超えるエレベータ渋滞ができてしまいました。クリエイターは、時間の無駄や非効率なものには特に厳しい生き物です。この問題は連日のようにMYMを騒がせ、エレベータ停止フロアの見直し、オフィスビル内階段利用の促進、警備員の方による誘導など、1ヶ月の間試行錯誤を重ねました。結果としては少しは改善されたと感じていますが、これはまだ完全解決とはいえない状況でもあります。

エレベータの混雑問題に対応するために少し早く出社して混雑時間を避けるクリエイターもいるなど自律的に動いてもらって助かっている部分もあります。一般的に、このような物理的な制約は解決が難しいわけですが、トライ&エラーを繰り返して解決できるように頑張っていきます。

誰がどこにいるかわからない問題

先行移転では2フロアのみ、対象者も一部の部門に限定されていたため、コミュニケーションをとりたい社員をなんとか探すことができました。ところが本格移転後は、フロアは10倍の20フロア、対象者も約10倍の5,700名となりほぼ不可能になりました。「情報の交差点」として偶然のコミュニケーションは生まれやすくなりましたが、対面でのコミュニケーションのハードルが上がってしまったのです。

そこで、アナログとデジタルの両面での問題解決を試みています。アナログでの解決としては、自分の名前が書かれた旗を立てているクリエイターがいます。またデジタルでの解決としては、社員の位置情報が分かるWebツールの提供です。このツールは、社員に貸与しているノートPCやiPhoneのWi-Fiの接続状況を利用して、社員の大まかな居場所を特定することができるというものです。これらを利用することで、対面でコミュニケーションをしたい社員がどのフロアのどのエリア付近にいるかが大体分かるようになりました。

社員の位置情報が分かるWebツール

人口密度偏り問題(Wi-Fi重くなる問題)

フリーアドレス制によって全20フロアのどこでも仕事ができるようになりましたが、フロアによっては席が不足がちになるときもあります。人口密度が偏っちゃう問題です。人口密度が上がりすぎると下記のような問題が発生します。

  • 空き席を探す旅が始まる
  • 人多すぎて暑い
  • Wi-Fi重すぎてつらい

偏りそのものについては、前述の「社員の位置情報が分かるツール」にアクセスするとどのフロアにどれくらいの人がいるかが分かるようになっているので、社員に能動的に動いてもらうこともできます。
しかし、業務の関係で集合して作業をする場合もあり、エリアによって人口密度に高低が出て、結果としてオフィス暑い(あるいは寒い)問題が起きる場合もあります。ここは「空調管理システム」というWebツールの出番です。ボタン1つで付近のエアコンの設定温度を操作できるようになっています。

フリーアドレス化により、多くのクリエイターが有線LANから無線LAN接続に切り替わったことも大きな変化です。無線LAN設備への負荷は相当なものになりますし、Wi-Fi重い問題はクリエイターにとって生産性を脅かす重要な課題になりつつあります。情報システム部門のエンジニアたちによって日々改善作業に努めてもらっています。

社内のWebツールについては、12/5(月)に、伊藤より詳しくご紹介します。

ヤフーの社内システムを紹介します

フリーアドレス化での気づき、新しい挑戦

(課題ばかり書いていくと気が滅入るので)フリーアドレス制を導入したことによるその他の気づきや新しい挑戦について少し説明します。

社内外勉強会やLTが活発に

フロアの一角や社員食堂を利用したクリエイターによる社内勉強会やLTなどのイベントがより多く開催されるようになりました。その数はすでに50件を超えています。社内外問わず人前に出てプレゼンテーションをすることでクリエイター自身の成長に大きく寄与すると考えています。

Yahoo!ニュースチームの勉強会

社員食堂の活用

社食提供時間外の使用率が異様に高いのがヤフーの社員食堂です。

社員食堂は食事をするための場所と思われがちですが、カフェや社内コンビニを併設していることもあり、社食提供時間帯以外ではフリーアドレスエリアの1つとして利用されています。社内勉強会などのイベントはもちろん、チームミーティングや上司と部下による1on1 ミーティングを行ったり、黙々とコーディングをするクリエイターもいたりと実に様々な用途で利用されています。

ペアプログラミング専用ブース

イノベーティブな環境と高い生産性(パフォーマンス)が出せる環境。2つの環境が矛盾せず共存するオフィスを模索しているところでもあります。

フリーアドレス化されたオフィスの中でも、席を固定席化しているものもあります。例えば、デザイナーは解像度の高いクリエイティブを扱う必要性もあるので、固定席にして大型のディスプレイを設置しています。

またアジャイル開発でおなじみのペアプログラミングを取り組むためのブースも試験的に導入しています。かんたんに言うとペアプロ専用固定席です。例えばヤフオク!では、“8209Labs(ヤフオクラボズ)” というエリアを作っています。いろいろな誘惑(チャットによるコミュニケーションなども)を排除し開発に専念するエリアで、ヤフオク!の新規機能開発を行っています。ポイントはCTOの指示ではなく、現場のクリエイターたちが自分たちで環境を整えているところです。

“8209Labs(ヤフオクラボズ)”については、12/7(水)に山下より詳しくご紹介します。

8209Labs(ヤフオクラボズ)の紹介

ペアプログラミング専用ブース8209Labs(ヤフオクラボズ)

最後に

この人数規模のクリエイターのフリーアドレス制を導入するのはあまり類を見ない事例だと思っています。これからも課題は出てくるでしょうし、インターネットを取り巻く環境は変化し続けるため、私たちの働き方も常にUPDATEし続ける必要があります。実は18Fの来客エリアは「インターネットの未完成感」を表しています。
またどなたでもご利用いただけるコワーキングスペースLODGEもありますので、機会がありましたらぜひヤフーのオフィスを体感いただければと思います。

芝生エリアでのエンジニアとデザイナーのものづくり

2016年のAdvent Calendarはこれから興味深い話がたくさん出てきますので、どうぞお楽しみください。

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  • 学びがある
  • わかりやすい
  • 新しい視点

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