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テクノロジー

Digital Wellbeingって何? 生活とテクノロジーの付き合い方をディスカッション - Bonfire Nextレポート

トップ画像、会場の様子

こんにちは。Bonfireの運営をしている福島です。
普段は、ショッピングにおける検索バックエンドを開発しています。
この度、Bonfire Next「Digital Wellbeing」を開催しました。
https://yj-meetup.connpass.com/event/136475/

グループディスカッションを中心としたBonfire初の試みにも挑戦しています。
当日の写真と共にイベントを振り返ります。

Digital Wellbeingとは

Digital Wellbeingという言葉は、日本ではまだあまりなじみがなく初めてみた方も多いかと思います。これは、人々の健康や生活の質を向上するためにテクノロジーと適切に向き合おうとする取り組みです。近年、街中における歩きスマホ、スマートフォンがないと落ち着かないなど、テクノロジーに私たちの生活が翻弄される機会が増えています。SNSなどによるいじめは自殺に発展することもあり、社会問題としてもテクノロジーが人に対してネガティブに働く問題が表面化してきました。

GoogleやAppleなどは、「テクノロジーとの付き合い方を見直そう」と声をあげ始めています。
日本国内においてはDigital Wellbeingに関する取り組みの事例はまだ少なく、認知もあまりされていない状況です。デジタルは、私たちの生活を便利にするものですが、付き合い方を今一度見直すべきかもしれません。サービス・プロダクト提供者としてこうした課題にどう向き合うべきか、意見交換の場を設けたいと以前から考えていました。

私たちのデジタル依存が加速する中で、Digital Wellbeingに対して、サービス・プロダクト提供者としてできることはないか、参加者の皆さんと議論をしました。

本イベントでは、大きく3つのセクションに分けました。

  1. Digital Wellbeingとは
  2. スマートフォンに感じること
  3. 私たちにできること

初めに、参加者の知識をある程度そろえるためにDigital Wellbeingとは何か、他社の取り組みについて簡単に共有しました。次に、スマートフォンに対して ネガティブに感じることをユーザー目線で挙げていき、最後にサービス・プロダクト提供者として何ができるかをディスカッションする構成となっています。

1. Digital Wellbeingとは

このセクションでは、イントロダクションということで前提知識をいくつか紹介しました。Digital Wellbeingとそれを取り巻く他社の取り組みを扱いました。

読者の皆さんに、他社の取り組みをいくつか紹介します。

スライドを使ったDigital Wellbeingについての説明の様子

Appleの取り組み

2018年にリリースされたiOS 12には、Screen Timeという機能が加わりました。これにより、iPhoneの使用時間を把握、管理できます。アプリごとの使用時間や通知回数、手にとった回数が可視化されています。アプリの使用時間を制限することも可能です。ユーザーが実際に行動に移さなくともメタ認知において、非常に重要な取り組みです。

お手元に iPhoneのある方は、ウィジェットから見ることができるので、のぞいてみてください。

Googleの取り組み

Googleは、この問題に非常に意欲的です。Androidを対象とした専用のページも用意されています。

Digital Wellbeing through technology | Google
Digital Wellbeing | Android

Androidでは、Android 10からDigital Wellbeingに関する多くの機能が実装されました。

Work Profileでは、仕事用/個人用と 2 つのプロファイルを持つことができます。仕事が終わり、プロファイルを個人用に切り替えると、仕事用のアプリは非表示になり、通知も無効になります。仕事後や休日に家族や自分のことに集中するのは、ウェルビーイングにつながるはずです。

Flip to Shhhは、Pixel 3以降のデヴァイスにおいて動作します。机の上においたスマートフォンの通知が気になり、触ってしまう人も多いはず。この機能では、デヴァイスを裏返すだけで全ての通知が無効になります。何か作業をしていたり、食事をしているときなど、私たちは目先のことに集中するべきです。

Facebookの取り組み

Facebookが展開するサービス Instagramでは、昨年から「いいね」の数が表示されなくなりました。「いいね」の数は目的ではなく、そこにアップロードされる写真や動画、そのものにこそ価値があり目的に値するのではないでしょうか。Digital Wellbeingでは、SNS上の関わり方にも焦点が向けられます。

世界を牽引する、AppleやGoogle、Facebookはユーザーが潜在的に「テクノロジーとのより良いバランスを望んでいること」に気づき始め、アプリケーション、OS、プロダクトレベルで取り組みを始めています。ユーザーにサービスを提供する上で、その先の懸念においても責任を持つ必要があります。

子どものゲームは1日60分まで 香川県の条例素案、親に努力義務

このセクションの最後に、昨今話題になっている香川県でのゲーム利用時間の制限に関する条例素案を取り上げました。提供者とユーザーの間に、行政が入って取締ることは"Wellbeing" につながるのかを考えなければいけません。テクノロジーに支配されず、制限もされず、適切なバランスを保つことは、どう使いこなすかを意味します。

2. スマートフォンに感じること

早速、ディスカッションに入っていきますが、その前に全体でアイスブレイクを行いました。参加者は、デザイナーやエンジニア、データサイエンティストを中心としています。業種はかなり散逸しており、アプリからプロダクト、自動車業界まで!、実にさまざまなバックグラウンドを持っています。

アイスブレイクの様子

本イベントでは、全部で4つのグループにランダムで割り振りました。それぞれのグループで、ユーザー目線からスマートフォンに感じることを話し合います。各グループには、模造紙や付箋などを配布し自由に使ってもらいました。

テーマのスマホに感じることの説明

普段からスマートフォンをよく使う方が多く、感じていることが途切れることなく挙がっていました。「目的なく開いてしまう」といった意見には共感の声が上がり、「画面がよく割れる」などのいったデヴァイスそのものに対する意見もありました。

各グループのディスカッション内容を見ていきましょう。

Group 1

Group 1のディスカッションの様子

  • 充電がすぐ無くなるので充電器をいつも持ち歩いてる
  • 何時間でも見てしまう
  • リアルでのコミュニケーション支障が出る
  • SNSで発信した情報は消せない

などが挙がっていました。何時間でも見てしまうが故に充電が無くなる、リアルでのコミュニケーションが減っているといった課題には、他のグループの方も肯いていました。また、SNSでの無責任な発言が実生活へ影響を及ぼすのも無視できない課題です。

Group 2

Group 2のディスカッションの様子

  • 通知が来ると集中が遮られる
  • ワイヤレスイヤホンが接続されず、大音量で流れてしまう
  • 寝るときにディスプレイが眩しい
  • SNSなどのレビューが気になる

などが挙がっていました。通知は便利な反面、タイミングが悪いと非常に厄介なものとなります。商品やレストランなどでレビューを気にするようになったのも、SNSの発展が大きいかもしれません。

Group 3

Group 3のディスカッションの様子

  • ログインできないことが多い
  • 料金が分かりにくい
  • 充電がないとソワソワする

などが挙がっていました。ログインできず、イライラしてしまう経験がある方も多いのではないでしょうか? こうしたことは、心理的な負荷にもなってきます。"Wellbeing"が意味することの多さを言及していました。

Group 4

Group 4のディスカッションの様子

  • メディアやアプリが中毒性が高いということを悪用している
  • アプリ使用時間がKPIとなっている

などが挙がっていました。アプリの使用時間が、主要なKPI指標となっているために中毒性の高いコンテンツを提供しようとするのは必然かもしれません。ユーザーは、そういったことがわかっていても、その連鎖から抜け出すのは難しいと感じているようです。

依存度の増加に加え、ディジタルによる私生活への介入、SNSにおける情報の問題などがディスカッションにより明らかになりました。ディジタルが私たちの生活を便利にしているのでは、事実であり、どうすれば拒絶することなく、適切に使いこなせるか。最後のセクションでは解決策を探ります。

3. 私たちにできること

最後のセクションテーマ「私たちにできることは何か。サービス、プロダクトを作る側として何ができるか。」の説明

最後のセクションでは、今度は提供者目線から私たちにできることを探っていきます。各グループで、先のセクションで挙げた課題をもとに、1つ問いを決めてもらいました。その後、ワールドカフェ形式でのディスカッションに移ります。

ワールドカフェ形式

ワールドカフェ形式に、なじみのない方も多いかと思います。ワールドカフェでは、以下の3つの段階から成り立ちます。

  1. テーマを探求する

    各グループでテーマ(問い)に対して、話し合い探求します。このとき、思ったことなどを模造紙に書き込んでおきます。

  2. アイデアを他花受粉する

    他花受粉とは、ミツバチなどが体に花粉をつけ飛び回ることにより、異なる遺伝子が出会い新たな種が生まれることです。各グループの代表のみが残り、他の人は違うグループに移ります。最初のグループでのアイデアが、他花受粉のようにどんどん他のグループに広がり、交わり、新たなアイデアとなることを期待します。また、このときも模造紙にいろいろと書き込んでおくとよりディスカッションが活発になります。

  3. 気づきや発見を統合する

    もといたグループに戻り、他での発見やアイデアを共有します。代表者は、そのグループで起きたことを共有します。その後、最初のテーマに対し、アイデアを統合していきます。

ワールドカフェ形式では、2の他花受粉が非常に重要であり興味深いところです。また、今回のように多様な職種、業種の方がいるイベントには相性がいいように思い、この形式を採用しました。本イベントでは、他花受粉の段階を2回行いました。

それぞれのグループがどのような問いを立て、どのような解決策を考案したの見ていきましょう。

アイデアが書かれた付箋

Group 1「自分が発信した情報が制御できない」

「バズる」や「炎上」といった単語をよく目にします。自分がいつ、その対象になってもおかしくない状況で、情報を制御するにはどうすればいいか。Group 1は、SNSでの適切な発信について問いを立てていました。

情報の意味を認知させるや受け取る側のリテラシーを高めるなどの意見が出る中で、情報の拡散スピードや内容に応じて色分けで可視化する、という解決策を考案していました。また、発信する前にどういった情報を発信しようとしているのかを認知させることも必要なこととして挙げていました。

写真などを投稿する際は、危険なコンテンツなどを分析してわざとアップロード速度を遅くしたり、一度失敗させるという斬新なアイデアも出ていました。受け取る側、発信する側のリテラシーが求められるSNSと上手に付き合うには、システムによる介入も必要そうです。

Group 2「便利さに左右されず、自分らしく生きたい」

スマートフォンにより、生活の質は改善されていますが、全てにおいてそうでしょうか? 旅行に行き、五感で感じるべき場面でも、写真に夢中になってしまう人も多いはずです。また、レストランなどでおいしいと感じても、レビューサイトの点数が低いと自分の感覚を疑ってしまうといったことも。Group 2では、ディジタルによる生活への介入に対して解決策を議論していました。

自分が実際に体験したものを、スマートフォンに阻害させず、最終的にはアナログな感覚へと促していくことが求められているそう。旅行などでも行き先を調べるのは便利だけど、そこでの経験は五感で体験させるUX設計などを挙げていました。

レビューサイトの点数が高いところに行ってしまうのは必然のように思います。しかし、これは個の喪失にもつながり、模倣の繰り返しに過ぎません。定量評価よりも定性評価をより重要視していくことは、自身の体験を尊重する上で、今後鍵となってくるかもしれません。

Group 3「スマートフォンを使い過ぎてしまう」

毎晩、ゲームを遅くまでやったり、動画の見過ぎで翌日に響くことも度々...。そういった、スマートフォンの使いすぎに対して、Group 3は、広告モデルの観点から探っていました。

使い過ぎているときに、アラートを出したり、強制的にログアウトさせるのは、スマートフォンを使わせないことはできるが、ストレスにもつながり"Wellbeing"ではないという意見からさまざまなアイデアを出していました。動画を見るほど広告がよく出るようになる、依存度の高い人には利用料に差をとるなど考案していましたが、強制に近くなってしまいます。

そうした中で、スマートフォンを使わない人はかっこいい、というモデルを確立させるアイデアにたどり着いていました。好きな芸能人や憧れている人が、スマートフォンと適切に付き合っている。これはインスタグラマーやスポーツ選手にも適応できるのでは、と議論していました。Digital Wellbeingは、すてきな人生であることをブランディングとして伝えることの効果は大きそうです。

Group 4「スマートフォンの中毒性が高すぎる」

スマートフォンの中毒性の高さ、それを加速させるサービスの危険度から問いはGroup 3に似ていますが、Group 4は異なる解決策を考案していました。

ユーザーの利用頻度を高めることに取り組んでいるサービスは、決して悪意があるわけではなく利益を追求する中で仕方がないこととした上で、第三者機関を設けるアイデアにたどり着いていました。Digital Wellbeing協会をIT企業を集め結成し、指針を作る必要があるというわけです。自動車では、環境性能に優れた自動車に対して税率を下げるといった取り組みがあります。また、韓国ではカジノがあるものの原則として韓国国民は入れません。他業態では、優遇や規制に対する先行事例が多くあるため、サービス提供者もそういった事例を参考にするべきとのことです。

会場の様子

会場の様子

最後に

日々のディジタル依存が増す中で、失われたものはないか。便利になる中で、マイナスに働いてることがあるのではないか、といった疑問を僕は以前から抱いていました。休日に、自然と触れたり、アナログなコミュニケーションを増やしたりすると、確かにある種の安心感を得るようになりました。

そのような流れの中で"Digital Wellbeing"という単語に出会い、休日のそうした行動が"Retreat"(退避)と呼ばれ、欧米を中心に流行していることを知りました。今回、Bonfire Nextを開催するにあたり、ぜひともこのテーマをやりたいという強い思いがありました。

日本でのインターネット利用率は、80%にも及んでいます(情報通信白書 令和元年版)。"Digital Wellbeing"という単語が認知されていない日本で、テクノロジーとの適切な付き合い方を考えなければいけない、という問題提起を含めて開催しました。Bonfireにおいての初めて取り組んだディスカッション形式も成功し、最後は話が盛り上がりなかなか解散されないほどいいイベントになったと思います。

ただしテクノロジーを完全に拒絶してしまうのは、今日のさまざまな利便性を放棄することになります。 これでは、Wellbeingな状態とは言い難いはずです。 ショッピングのようなサービスは、テクノロジーによる新しい生活の拡張と同時に従来やっていた購買活動の代替手段とも言えます。 他にも、ニュース系のアプリでは、新聞を読むという行為に対する新しい手段と言えるはずです。 テクノロジーは、私たちの生活に新しい機能をもたらすとともに従来の機能をより使いやすく、より便利に置き換える役割を担っています。 便利なものは、もちろん使い、ただ過度に没入はしないという制御、そのバランスこそが"Digital Wellbeing"であり、 サービス提供の上で考えなければいけないことです。 今後、"Digital Wellbeing"の対応は今行われているOSレベルからアプリでの対応に移っていくと思います。 利便性を保ちつつ、依存度を抑えるよう、通知やメール配信のコントロールなどから"Digital Wellbeing"の文脈で考えていこうと思いました。

ぜひ、参加者、読者の皆さんもここから問題持ち帰っていただき、テクノロジーとの付き合いを考え直す機会になればと思います。

写真 : 永井 碧

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