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テクノロジー

ソーシャルグッドなデータ可視化の可能性を探る Bonfire Data Analyst #5 イベントレポート

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皆さまこんにちは。ヤフーのDATA SOLUTIONでデザイナーをしている横内と申します。

2022年7月5日(火)にヤフーが主催するBonfireという技術コミュニティの一環で、データの利活用者に向けた「Bonfire Data Analyst#5 ソーシャルグッドなプロダクト」というオンライン勉強会を開催しました。

このレポートは

勉強会のテーマは国内ではまだ事例の少ない、「社会貢献 (ソーシャルグッド)」を意識したデータ可視化に着目しました。天気・災害、SDGs、政治・選挙、社会・環境など多様な分野におけるデータ表現の第一人者にスピーカーとしてご登壇いただき、ソーシャルグッドにつながる企画意図や制作プロセスまで貴重なお話を伺うことができました。とても学びの多い勉強会だったこともあり、勉強会を通じて得られたこと、学んだことをレポートにまとめました。

このレポートは特にこのような方たちへおすすめです。

  • 勉強会に参加、もしくは知っているが、改めて内容を振り返りたい。
  • データを使った社会貢献に興味がある。
  • 業務上のデータ活用に縛られない、データの可能性を知りたい。

これを機にぜひ理解を深めていただけますと幸いです。

勉強会の目的

災害やSDGs、少子高齢化や新型コロナウイルス感染症など社会的な問題は世界的に山積しており、2022年の日本においても喫緊の課題となっています。ただこのようなマクロな課題は抽象的で、私たちの普段利活用しているデータの技術や表現をどのように役立てられるのか、なかなかイメージしづらい状況にあります。それは国内における事例の少なさや、ソーシャルグッドなデータ可視化が業務で用いるビジネス上のデータ可視化の定義とかけ離れているからではないかと考えられました。

勉強会を開催するにあたり、ソーシャルグッドなデータ可視化に取り組まれている最前線の専門家から企画背景や制作過程をお話しいただき、より社会に貢献するデータ可視化のイメージを具体的にしてもらうことで前述の課題を解決できるのではないかと目的を定めました。

そのため、ご登壇者のみなさまからソーシャルグッドのための可視化を包括的に理解できるように、4つの観点から具体的なアプローチをご紹介いただきました。

  1. 天気・災害:榎田 宗丈 ◆ ヤフー株式会社
  2. 政治・投票:池邊 亮輔様 ◆ NPO法人Mielka
  3. SDGs:金原 洋子 ◆ ヤフー株式会社
  4. 社会・環境・アート:山辺 真幸様 ◆ 大学講師 / デザインとプログラミング株式会社 代表取締役 / データビジュアライズデザイナー

ここからは具体的な登壇内容とソーシャルグッドなポイントについてお伝えします。

発表:ユーザーの力を活用した行動支援 〜災害マップにおける取り組み〜

榎田 宗丈 ◆ ヤフー株式会社 / 天気・災害システム エンジニア

トップバッターとして、弊社の天気・災害領域で主に災害マップの開発を担当している榎田から、Yahoo!天気・災害の災害マップにおける取り組みが紹介されました。

ここで言う災害マップとはよくある手作業で更新する災害マップとは違い、ユーザーから災害情報を集めるUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)と防災速報、自治体情報を組み合わせて配信できる自動生成災害マップという点が特徴的です。

スライド紹介

課題と企画

Yahoo!天気・災害では今までも災害情報の配信はしているものの、災害が自分ゴト化されない、状況の認識に時間がかかる、という課題を感じていました。

スライド紹介

また災害状況の収集にも課題があり、既存のメディアではコストの問題で情報の質が担保できないなどのデメリットがありました。そこで、榎田の所属するプロジェクトではユーザーの投稿情報を活用した新たな災害マップを生み出すことになりました。

プロダクトの具体的取り組みや工夫

  • ユーザー投稿の収集
    • 一口にユーザーから情報を集めるといっても、むやみに投稿を集めても災害情報のノイズになってしまうため、ユーザーの身の回りの状況を伝えるように促す体験を作ることで投稿を収集しています。また、掲載した呼びかけ文章も自分ごと化できるように工夫しました。
  • 負荷対策
    • 災害マップは普段データ量が少なくても、災害時に高負荷になってしまう課題がありました。さらに、マップのデータは緯度軽度でキャッシュが利きづらい難点があります。そこでこのように突発的なリクエストが来た時は、スケールアウト/サーバサイドキャッシュを利用して、データベースのデータを定期的にサーバで取得して保持することで解決を図りました。
  • Geohashの対応
    • 緯度経度を文字列に変換しています。文字列にすることで、メッシュ領域内のユーザーからの参照を同一リクエストとして捌けるのでキャッシュが効きやすくなります。また一文字増えたとしても、細分化したメッシュの領域を示せるように構造化する工夫をしています。
  • 受動的に状況を伝える仕組み
    • 能動的に災害マップを見られるユーザーだけではないため、ユーザーの投稿が集まり危険度が上がると周辺地域に居るユーザーにPUSH通知を送り、注意喚起を促す工夫をしています。

ソーシャルグッドなポイント

資料の最後に災害マップを通して実現したいビジョンをご紹介いただきました。「ユーザーからの情報を活用して、災害の状況把握を支援することで、一人でも多くの命が助かる未来へつなげる」このデータと社会貢献をつなぐビジョンが、特にソーシャルグッドなポイントかと思います。

詳しい内容は、資料でもご確認いただけます。

発表:投票の質の量の向上に向けて

池邊 亮輔様 ◆ NPO法人Mielka / 副代表理事

続いて、池邊さんからは所属されているNPO法人Mielkaと、リリースしたプロダクトであるJAPAN CHOICEについてご紹介いただきました。

Mielkaとは若年の政治参画や意識を向上させようと、若者が主体となって活動されているNPO法人です。Mielkaでは人とのコミュニケーションを主軸としたエンタメ事業や教育事業と、情報の発信を主軸としたラボ事業に分かれており、中でもラボ事業の選挙情報可視化サイトのJAPAN CHOICEは、選挙のたびに同団体と有志でメンバーを集いながら更新されており、まさにソーシャルグッドなプロダクトとして注目を集めています。

スライド紹介

課題と企画

池邊さんの所属するMielkaでは、若年層の投票率が低位で推移していいることに危機感を持っていました。そのため投票率を上げるにはどうすれば良いのかという点について、チームで徹底的に分析し、選挙に参加する信念が、投票するためのコストを上回らなければならないという気づきを得ました。ただしインセンティブを用いるなど、無為に投票率が上がれば良いというわけではなく「有権者が楽に、無意識のうちに、合理的な選択ができる」という理念も必要でした。結果としてその理念を形にするために、JAPAN CHOICEという選挙データを用いたサービスを展開することに至ったとのことです。

近年では2021年の衆院選ではアクティブユーザーが約160万人にもなり、そのほとんどが40歳未満であったということで、若者にJAPAN CHOICEが根づきつつある成果もご紹介いただきました。現在は政党や政策を中心に可視化プロダクトを提供していますが、これからは投票の参考に、議員ごとの情報を可視化する議員ペディアや、地方自治体の選挙にサービスを拡充するLOCAL VOTEなどより、詳細なメディアも拡充されるようです。

ソーシャルグッドなポイント

池邊さんからはよく聞く若者の投票率が低いという抽象的な問題を、政治学の投票行動(合理選択モデル)を元に、意欲やコストといった投票者の意識を非常に細かく分析されていました。

スライド紹介

このことからインセンティブを与えるような無意な投票率の向上ではなく、理念を持ったサービスが必要であるという気づきを得たとのことです。また訪問ユーザー層の分析も定期的に行っており毎選挙ごとに展開した施策の効果から、次の施策を導き出すことも重要視されているようでした。

抽象的な社会問題をいかに論理的に定義づけるか、また継続的に観測できるかという点が特にソーシャルグッドなポイントと考えられました。

発表:グラフィックで考えるSDGs 〜社会課題を可視化する〜

金原 洋子 ◆ ヤフー株式会社

続いて、ヤフーでグラフィックプロジェクトのプロジェクトマネージャーである金原から、データ可視化 × エディトリアル(編集)の重要性について紹介されました。

グラフィックプロジェクトはYahoo!ニュースを中心に解説用グラフィックを制作されており、金原はそのプロジェクトの中で、より情報を分かりやすく伝える仕組みづくりに取り組まれています。

スライド紹介

また金原は前回のBonfire Data Analyst #4 行動変容のための可視化にも【図解】東日本大震災から10年の歩みと未来といった内容で登壇してもらい、今回はそこからさらにソーシャルグッドな観点をアップデートした内容を発表いただきました。

課題と企画

ヤフーではよくあるニュース記事とは別に、社会課題などの世の中の動きに対しても特集コンテンツを発信されています。

ただ今までは、個別の事象や課題を深掘りしたオリジナルコンテンツは豊富にあるものの、全体を俯瞰できるコンテンツが少ない傾向にありました。また、一般的に読者が社会課題を自分ゴト化しづらいことに課題を感じていました。そこで金原はエディトリアルとデータを組み合わせることにより、課題の全体像を理解し、自分ゴト化してもらえるよう企画から制作まで一貫したプロセスを構築しました。特に意識したのはコンテンツを制作する際は、ファクトに徹すること。そうすることで解釈をユーザーに委ね、さまざまな意見を交わし、考えるための土台となるようにしました。

スライド紹介

このプロセスを使った一例として「データで知る日本のジェンダーギャップ」といったコンテンツを配信されており、序論から結論までいくつかのデータ可視化で上手に構成することができるようになっています。現在はYahoo! JAPAN SDGs上でも掲載しており、閲覧されたユーザーからもわかりやすいと声が集まり、SNSでさまざまな意見が飛び交ったとのことです。

ソーシャルグッドなポイント

社会課題のような抽象化された情報は、データ可視化とエディトリアルを組み合わせることで、全体像を与えて、ユーザーの理解につながることが分かったとのことでした。データ表現というと、ついインタラクティブなコンテンツを想像してしまいます。ただソーシャルグッドの観点で言えば、ビジュアル面でのわかりやすさはもちろんのこと、利用するデータの選定やストーリー構成の編集的判断も重要であると分かりました。

詳しい内容は、資料でもご確認いただけます。

発表:先端科学と社会をアートでつなぐビジュアライゼーション

山辺 真幸様 ◆ 大学講師 / デザインとプログラミング株式会社 代表取締役 / データビジュアライズデザイナー

最後に、データ・ビジュアライズデザイナーの山辺さんから、最近取り組まれているデータ可視化プロジェクトについてご紹介いただきました。山辺さんは普段から新型コロナウイルスや環境問題の可視化など、スケールの大きいデータ可視化に取り組まれており、背景も含めとても聞き応えがありました。

課題とテーマ

山辺さんが携わられたいくつかのプロジェクトについて、可視化面でのデザインプロセスを紹介いただきました。特に気になった事例は新型コロナウイルスゲノム系統樹の3次元可視化です。

スライド紹介

新型コロナウイルスは特定の株がどのように拡散したかという情報は重要ですが、それを視覚的に報道する方法がないことを企画の出発点に置かれています。元となるデータは世界中の解析されたゲノム情報を用いており、世界のどこからいつ現れて変異したのか表すために世界地図に対し3次元化表現を用いたベースを作られ、その後からが圧巻でした。生命科学の研究者との協働作業を通じて各変異株をつなげるための系統樹をいかに正確に、滑らかに表せるかに腐心されており、系統樹に対する深い理解や、実際の表現に落とし込んだときの見やすさまで細部までデータの表現をコントロールされていることが分かりました。

この他にもいくつかプロジェクトをご紹介いただきましたが、一貫されていたテーマはアートとしてデータの全体像可視化することでした。

ソーシャルグッドなポイント

一般的に語られているデータ可視化では、散布図から相関を調べるような探索的可視化と、インフォグラフィックやダッシュボードなどコミュニケーションを重視した説明的可視化に分かれています。

スライド紹介

ただアートとしての可視化は、そのどちらも重視する必要があり工程としてはとても複雑です。それでもなぜ取り組むのかという点を、山辺さんは述べていました。

「アートとしての可視化は見ている人々を美しく、驚きがあり、記憶に残りやすい状態にさせ、さらには想像を喚起し、主体的な問いや対話を誘発し、多様な視点から読み解く機会を提供するにさせます。また従来のデータ可視化とは違い、1つの問いに絞らず、問いそのものの発見や関係性、可能性までも可視化することができます。」

このことから特定の問に絞ることの難しい社会課題や地球規模の問題は、人々に情報をより強く伝えるための非常に効果的な手段として、アートとしてのデータ可視化が非常に重要であることが分かりました。ただ一点だけアートは魔法のように現れたわけではなく、データや可視化方法の整備、プロトタイプベースでの専門家とのコミュニケーション方法を自身で何度も試行錯誤し、時には専門家と協力しながら実現していく地道な取り組みの上に成り立っているとの助言もいただきました。

詳しい内容は、資料でもご確認いただけます。

まとめ

ここまで4名の専門家からプレゼンをいただき、ソーシャルグッドなデータプロダクトを実現するためには、以下のような課題と解決策があることが見えてきました。

  • 課題: 抽象的な社会的課題に対して、多数の人が認識しアクションしてもらうためには
    • 社会に属する一人ひとりに課題を自分ゴト化をしてもらう必要がある
  • 解決策: 課題を正しく自分ゴト化してもらう
    • 社会的な課題は論理的に明確化することで、ソーシャルグッドで実現すべき理念を得ることができる
    • 短期的にはデータ表現を、アートやエディトリアルなどの面白さとして記憶に残す
    • 長期的にはUGCの活用など、ユーザー参加型のデータ表現を構築することでユーザーのコミュニケーションを促進する
    • 間違った解釈が広まらないためのストーリー編成による監修が必要

もちろんこれは私がレポートにまとめたエッセンスの一つですが、紹介した事例を参考に「ソーシャルグッドなプロダクト」の開発に従事される方が増えるとありがたく思います。

おわりに

勉強会にご参加いただけた方も、レポートで初めて知っていただけた方も、ここまでお読みくださりありがとうございます。このように貴重な勉強会を開けたのは、ひとえに登壇を快諾してくださった池邊様、山辺様、そしてヤフーの榎田、金原のおかげです。改めて感謝を申し上げます。また開催を後押ししていただいた、ヤフーのデータコミュニティにも大変助けられました。

これからもヤフー主催の技術・デザインコミュニティ「Bonfire」では、定期的に勉強会を開催しています。connpassにて定期的に告知をしておりますので、興味のある勉強会にはぜひご参加いただけますと幸いです!

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  • 学びがある
  • わかりやすい
  • 新しい視点

ご感想ありがとうございました


横内 寿樹
データソリューション事業 UI/UXデザイナー
直近ではデザインにおけるデータ活用や、データ可視化の重要性を感じており、国内でのさらなる普及に向けて活動しております。

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